第21話 協同
山上豆腐店の小町と、伏見氏、そしてもう一人の秘密の共有者、南雲慶子がキツネ亭に会する。
情報共有を目的とした、寒い京都の夜にはよく似合う、湯豆腐会である。
キツネ亭のこたつの上には土鍋のセットされたカセットコンロが。
中身は湯豆腐、そして少し炙ったお揚げさん、春菊のおひたし、白ごはんと漬物類が各自の前に置かれている。
刻んだ葱とおろした生姜は小鉢に盛られ、各自が好きなように取って食べるようになっていた。
つけダレは鷹来家の味、ポン酢は大原のドレッシング屋さんのもの。
お揚げさん用に香川の醤油も置かれている。鷹来家はこういうところにはこだわっているようで、両親亡き後もこの辺りだけはキツネが受け継いでいる。
「山上小町さん、ですね。私は南雲慶子と申します。伏見様の紹介でキツネさんとダクさんに命を救われ、今は協力者として動いております。今回立ち上げたキツネさんが社長のウママチキツネコーポレーション、も」
「ウママチキツネコーポレーションって……その、ネーミングが」
「あら、全部丸投げになさったのはキツネさんではございませんでしたか」
少々怒気が込もっている。これはキツネが悪い。
「……いえ、なんか、すんません」
頭を下げるキツネ。
「ウママチキツネコーポレーションを介して、山上豆腐店のお揚げさんを購入させていただき、振り込みなどはそちら経由でさせていただきます」
「いろいろよろしゅうおねがいします、うちは山上小町、いいます。キツネが小学校の時に越して来たときからの幼馴染で、ようお揚げさんを買うてもろてました。こんなに大口のお客さんになるなんて夢にも思てませんでしたけどね」
ダクはすでにお揚げさんに手をかけている。
ダクが1日に75枚、お揚げさんを消費すること、25枚は伏見氏に納品していることを告げる。
「ダクちゃん、そんなに食べるんやね……」
『改めて、小町ちゃん、ウチ、ダク、いいます。ほんまに、いつも美味しいお揚げさんをおおきに、こんな人外の存在やのに受け入れてくれて感謝します』
感謝の気持ちがこもってはいるが、なにせお揚げさんを食べながらなのでありがたみも半減である。
「ダク、食べながらは行儀が悪いで」
「ええよ、キツネ、ほんまに美味しそうに食べてくれてるから、豆腐屋冥利に尽きるわ」
笑顔でダクを見る小町。
「いつもお揚げさんのことばっかり目ぇいくけど……やっぱり山上さんとこはおとふも美味しいわぁ」
豆腐に火が通り過ぎて
タレで食べ、ポン酢で食べ、お揚げさんを食べ、用意されていた料理は全て胃の腑に収まった。
一同、満足の様子である。
「いやぁ、ごちそうさん、ごちそうさん。キツネ君、ワシまでごちそうになって悪いなぁ」
伏見氏も帯の上から手を当てて、満腹をアピールする。
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