第16話 偽シュレン

祇園へは「南座の屋根で金勘定」したとき以来、足を運んではいない。

ダクもキツネも覚えがない以上、その狐面の怪人はシュレンの偽者である。


「冷静に考えて、俺らの偽モンになっても何の得もないやろうけど……」


『絶対に許さへん』


「ダク?」


『ウチらの名を騙った罰は、受けてもらわなあかん』


「ダクにとってシュレンの存在はアイデンティティちゅうか、レゾンデートルちゅうか、兎にも角にも大事な存在なんやな」


『ウチにとって、やない。ウチらにとって、や』


「そうやな。俺らにとって、大事な存在やからな」


明らかに、シュレンがいる。


「つぶやき」や「ばえる」などのSNSを駆使し、ダクが情報を収集している。

ネット上の記事。


「シュレン無双、暴力系の団の人、逮捕」

「シュレンと名乗る怪人、祇園で大暴れ」

「シュレン、取引妨害、組織にダメージ」


色んな見出しがついてる。

幸い?一般人に危害は加わってはいない様子。また、金品の寄付のお願いもなかったようだ。また、新聞などへの記載は見られない。


『ちゅうことは、恵まれてへん人は犯人ではないな。多分……恵まれた人や』


「事件起こすのが恵まれへん人ばっかりと思たら大間違いやぞ」


『まぁそれはそれとして。多分祇園のビルに自由に出入りできるヤツやな。普通の人間は、消えることできひんし』


「防犯カメラとか提出を求められても細工はできる、と」


『警察もシュレン追うよりも組織の捜査に必死やろからな』


のときはそこまで表立ってなかったみたいやけど、意図的に情報を拡散してるようにも思えるな」


『多分、おびき出そうとしとるな……どっちにしても、変なことされてウチらに迷惑かけられてもかなん。こっちから攻めよか』


「みかじめ料とか集められても困るからな」


『そうしたら上前はねてしまお』


「それは倫理的にアウト」


『片足突っ込んどるようなもんやん』


「これ以上は、あかん。やろ? 」


『……あんたが善人でよかったわ』


「善人ではないと思う。何より、自分が大事やから」


『それがいちばん大事なことや、うん』


偽シュレンが出回るのは、決まって午前3時。おびき出す気満々、といったところか。山上豆腐の店員さんが見たのもそれくらいの時間らしい。


『ほな、行こか』


「流石に着流しで出歩くとややこしいことになるな。で、考えたんやけど。衣紋掛けの着物と、狐面、これを光の筒通して俺の服と交換ってできひんかな」


『ほう、なるほど、できるできる、やっぱりおもろいこと考えつくな、キツネ』


「こういう、ようわからん事考えんのは得意なんよな、はは」


『そういうのがありがたいんよ』


「もう一つええ? 」


『なんやろ』


「筒の入り口をこの家において、出口を祇園あたりに出せば、ワープみたいにできるよな」


『ほうほう、これは便利やな』


「出先の情報とか、座標とか、風景とかわからんでも大丈夫? 」


『今はゴーグル先生のストレートビュー使つこたらわかる、ゴーグル・アースもあるし。……ん、これやったら日本全国津々浦々、どころか世界中行けそうやな』


「便利になるなぁ。……祇園やったら知恩院さんのバス停の近くに公衆トイレがあったな」


『そこの中にしようか』


無事に転移を果たし、人の気配がないことを確認し、祇園方面へ足を向けるキツネ。


……日頃の行いがいいのか悪いのか、すぐにもう一人の狐面の怪人に出くわすことになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る