第13話 筒術(トウジュツ)
南禅寺近くの、南雲氏の別荘。広い庭に面した一室に、息も絶え絶えな南雲氏の娘がベッドに横たわっている。
「慶子……」
南雲氏は全てに見放された娘を一目見ると、ベッドに顔をうずめて泣き出した。
「なぜ、なぜこんなことに……」
突如、部屋の中に風が舞い、その場にシュレンが現れる。
「シュ、シュレン、さん……」
伏していたはずの慶子は、シュレンの気配を感じると突然声を上げる。
「近ヅクナァッ!コノ娘ノ、命ハ無イゾッ!」
「け、慶子!?うわっ!」
飛び起きた慶子が南雲氏を跳ね飛ばす。
『命はない……? 命が
どこから取り出したか、慶子の手にはナイフが。
「死ネェッ!」
シュレンの胸に突き刺さる刹那、ありえない方向から飛び出したナイフの切っ先でナイフ自体が弾かれる。
「ナッ!? 」
『
キーン!
高い金属音が部屋鳴り響く。
シュレンが手をかざすと大きな光の筒が現れ、一瞬にして慶子を包み込み、浮かび上がらせる。
シュレンは慶子の背後に回り込み、身動きの取れない慶子の背中を光の筒からゆっくりと押し出す。
『二の撃』
「ヤ、ヤメ……ロ……」
光の筒から押し出された慶子はベッドに倒れ込み、光の筒に残されたのは黒いアメーバ状の物体。
『消・却』
光の筒が勢いよく回転を始め、段々と小さくなり、光の点となって消滅する。
先程の騒ぎが嘘のように、静まり返る、寝室。
『(何モンかはようわからんけど、あの黒い奴、消えたわ)』
小声で伝えるタグ。
「(了解、あとは俺がやり取りするわ)」
南雲氏を抱き起こすシュレン。
「南雲さん、娘さんに取り憑いた不埒な輩は、消却できました。」
「シュ、シュレンさん……!本当ですか!」
「大丈夫やとは思うんですが、だいぶ消耗してはると思います、ゆっくり養生させたげてください。狐のお面つけてふざけたやつや、と思わはったかもしれませんが……色々とワケアリで、はい、すんません。あと、私のことはくれぐれも内密に。探したりせんようにしてください。では、私はこのへんで」
ダクとは違い、変に饒舌なキツネ。長々と説明をして、フッと姿を消すシュレン。
「ん……お、お父様……」
「慶子!誰か!誰か先生を呼んでくれ!慶子が、慶子が助かった!!」
部屋を飛び出す南雲氏。
慶子はその後精密検査を受け、異常のないことが確認された。
予後も順調だそうである。
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キツネ亭。キツネがコーヒーをハンドドリップで淹れていた。
「なぁ、ダク」
『どないしたん?』
「管術(カンジュツ)ではなく、筒術(トウジュツ)なんやな」
『管は、何かヤやった、それだけ』
「で、南雲氏の件は……タダ働きやな」
『伏見の方様のために働けるんやから、喜ばなあかんとこやで』
伏見のお稲荷さんの御札が掲げられた神棚に手を合わせるダク。
「タダ働きさせて、すまんな、キツネ君」
「わっ!? 」
「ワシにもコーヒー、淹れてくれるか? 」
ニコニコ笑う伏見氏の突然の来訪に、腰を抜かしそうになるキツネであった。
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