第11話 参拝

京都に住んでいて、〇〇に行ったことがない。


そういう話は、よくある。

ただ、年齢としを重ねると、なにか思い立ったときに、お参りをしたくなる。


科学で解明できないもの、現状、科学は何もしてくれないことに対して、

神仏の力を、もしくはざっくりと「パワースポット」に、頼ろうというのだ。


「神仏は敬えど頼らず」


といったのは、確か武蔵だったか。


これでは「神仏は敬わずとも頼る」ではないか。


そんなことを考えながら、キツネは懐にダクを連れ、着物姿で、しっかりと狐面も懐に、京阪に揺られていた。


「で、ダク。伏見さんが出てきたのは完全な想定外やったんか? 」


伏見稲荷駅下車、伏見稲荷大社に向かいつつ、キツネはダクに話しかける。


『最初は近所のお稲荷さん祀ってるお社から、ちょっとずつ「ウチ、復活しました~」アピールをして、ちょっとずつ偉い人に当たっていって、あわよくば伏見の方様に取り次いでもらおうと思とったんよ。まぁ、諸々は伏せるけど』


「社員から課長あたりに当たりをつけて商談をまとめようとしたら、打ち合わせに社長がいきなり来たようなもんか」


『表現は微妙やけど、まあそういうことやわ』


鳥居を二箇所、頭を深々下げてからくぐり、手水を使い、本殿へ。


お賽銭を忘れず入れて、二礼二拍手一礼。


「(先程はお使いの?伏見の方様にお世話になりました、京都市東山区五條通若宮八幡前下ル東入馬町2丁目3番地の4、鷹来恒彦でございます。平素は管狐のダク共々大変お世話になっております。ありがとうございます。不信心ながら本日初めて参拝をさせていただきます。今後ともダク共々お見守りいただけますよう、何卒よろしくおねがいいたします)」


社務所で御札を授けていただき、少しホッとする。


奥の院へのお参りを、と振り向いた瞬間。


「さっそく信心なこっちゃなぁ、キツネ君」


「うわっ!伏見のか・・・伏見さん!」


キツネの懐のダクは振動している。着信のあったスマホのようである。


「さっそくで悪いんやけど、ちょっと付きおうてくれるか」


伏見氏が先導をし、境内から離れた千本鳥居の外れに到着。


「ダク、キツネ君。シュレンになり。お面、もってきとるやろ」


伏見氏に言われるままに、狐面を装着。シュレン参上である。


「今から引き合わす御仁は、伏見のお稲荷さんの信心が厚い南雲さん、ちゅうんや」


『伏見の方様、その南雲さんが……なにか……? 』


「それを今から言うんや、黙って聞いとき」


『も、申し訳ありません! 』


「実はな、娘さんの体のことなんや」


「娘さんの、体? 」


娘さんの体を蝕んどる。な。寄生虫、いや、寄生体、というべきか。一体化が進んで手の施しようがないらしい」


「いわゆる、ガン、とかではなく……? 」


「医術でも、いわゆる神仏の力でもどうしようもないらしい。何かしようとするといきなり意識が乗っ取られて暴れるんじゃと。多分、ダク、いや、シュレンの力やったら助けてやれるやろ」


伏見氏の無茶振りに困惑する、キツネ+ダク=シュレンであった。

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