第9話 うわさばなし

祇園界隈で、シュレンの噂が広まっていた。

南座の屋根でキツネとダク、シュレンが金勘定をした日を最後にその姿を見たものはいない。


最初のの皆さんは銃声で通報され警察に連れて行かれた。


周辺の防犯カメラには彼らが戦った相手と証言するシュレンの姿はなく、彼らの証言も「2mの大男」「1mちょっとの子供」「1m50cmほどの女の子」など背格好も声もバラバラ。警察は共通する「シュレン」なる存在はいたかどうかも不明、防犯カメラにも映らず、幻覚でも見ていたのだろう、と結論づけた。


あとのの皆さんは警察に通報される前に倒され、募金を済ませ数時間後に仲間に発見され保護されるという有様で、祇園の夜がしばらくの間ではあるが少しだけ、静かになったそうである。


山上豆腐店。

朝の散歩のついでの買い物が、毎日になった。

あまりお金と言えないが、ある意味仕方あるまい、不可抗力だと言い訳をしつつ、今日もお揚げさんを買いに来るキツネ。


「今日はお揚げさんを20枚、で、明日は50枚お願いしたいんやけど……」


ダクの能力の拡張に必要なお揚げさんの枚数がだんだんと増えてくる。

明らかに、個人の購入する枚数でなくなってくると、小町もなにか違和感を感じ始める。


「キツネ、いくらなんでも多すぎひん?うちは商売やさかい、買うてくれるんはありがたいねんけど……」


「う、うん、ちょっと色々とワケアリで」


「お金も、どうしてるん? 」


「(確かに、個人で買う量やない……困ったな……)」

キツネが返答に困っていると、懐に入れたダクがびくっと震える。


「山上豆腐さん、ですな」


キツネの背後で声がする。


振り向くと恰幅のいい、初老、着物姿の男性が。


「あ、はい、そうですけど……」


「私は、ある料理屋のオーナーで伏見、言います」


伏見と名乗る男性は、キツネの横に立ち、小町に話し始める。


「実は、最近キツネ君にお揚げさんの美味しいお店がある、と聞きまして。

何日か試しに買うて来てもらうようお願いしとったのは、ワタシなんですよ」


「は、はぁ……」


「うちの料理長に食べさせたところぜひ店で使いたい、と。どこの店、というわけにはいかんのですが……そういうでしてな」


小町もそういうお店があるのは聞き及んでいる。

取引先にも、何軒かそういう料理屋のカムフラージュの納品先がある。


「守秘義務、いうやつですな。で、申し訳ないんやけど、どこに卸すか秘密でも、お揚げさんを一日100枚、融通してほしいんです。もちろん、現金でキツネ君に持ってこさせます」


「あ、掛売りで結構ですよ、キツネの紹介やったら。なんかあったらキツネに払うてもらいますし」


「そうしてもらえると手間が省けて助かります。キツネ君、受け取りと配達だけこれまで通り頼まれてくれるか? アルバイト代はこっちで持つさかい」


「あ、はい、伏見さん。了解です……

(ダクのやつ、こんな人どうやって用意したんやろう? )」


キツネはを考えていた。

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