第7話 募金活動
『ウチは……シュレン』
狐面のせいでくぐもってはいるが、祇園の喧騒の中でしっかりと響くダクの声。
『なんや……物騒な感じやねぇ』
「おい、ちょっと痛い目ぇ見せたれ」
サングラスの男がそう言うと周りの男が一斉にキツネに飛びかかる。
「(ひっ)」
声を出そうにも声帯の制御を奪われ、声も出ないキツネ。
先頭の男がキツネに殴りかかる。
「(あたる! )」
硬直するキツネ。しかし、その拳はキツネに届かない。
よく見ると、先頭の男はどこからかの打撃で、吹っ飛んでいた。
「ぐはっ! 」
壁に頭をぶつけ、気を失う男。
「な、何やこいつ」
転がっていた棒っきれを構え、キツネに襲い来る二人目の男。
「(色々と追いつかん、え、これどういう状況!? )」
今度こそ木の棒が頭に直撃、すると思ったが。
「だっ!? 」
空中に現れた木の棒が、男のこめかみに直撃。そのまま伸びてしまう。
『物騒な世の中やなぁ……散歩してたら、いきなり襲われるんえ』
キツネを遠巻きに囲んでいた男たちの目前に、先程の木の棒が現れ、全員が一撃で沈む。
自分の部下がバタバタと倒れる。
目の前の……シュレン? は何もしていないようにも見えるが……
「ひっ! 」
サングラスの男は懐から拳銃を取り出す。
「ば、バケモンが! 」
バーン! と音が響く。シュレンは微動だにしない。
変わってキーン、という音がサングラスの男の耳に響く。
サングラスが弾き飛ばされ、腰を抜かす。
『さて、お兄さん』
「な、なにもんや……」
『さっき名乗ったよ、シュレンって』
「シュ、シュレン……」
『物騒な世の中やから、恵まれへん人っているんよ』
「……え? 」
『ウチ、募金活動をしてんねんか。恵まれへん人への、募金』
「ぼ、ぼきん……? 」
『アンタの財布、一万円札が82枚入ってるやんか?その中から1枚、寄付してくれへん? 』
「か、金なら全部やる! 」
分厚い財布を差し出す男。
『いややわぁ、それ、恐喝やん。うちは、1枚だけで結構です』
財布から1枚、一万円札を抜き取り、その財布を男の口にねじ込む。
「ムグッ! 」
『世の中、物騒やから。気ぃつけなあかんえ』
シュレンは絡まれていた男に近寄る。
「た、助かった、礼を言う」
『助けた覚えはないんやけど……さっきの話、聞いてた?
ウチ、募金活動しとるんよ』
「か、金が望みか!? なぁ、アンタ、うちの組織に来ないか?金ならいくらでも」
先程の木の棒が、男の目の前に突き出される。
シュレンは一つも動いていないにもかかわらず。
『ウチ、募金活動に忙しいんよ。恵まれへん人へ、あんたの財布ん中の一万円札73枚から1枚、はよ寄付してもらえへんやろか? 』
「ヒッ! 」
目の前に突如現れた木の棒にただ恐怖を覚え、しゃがみ込む男。
差し出された財布を受け取ると、シュレンはその中から1枚、一万円を抜き取って男の口に財布をねじ込む。
『恵まれへん人への寄付、おおきに。またの機会があったら、よろしゅう』
一陣のつむじ風が巻き上がると、シュレンはその姿を消した。
光と闇、喧騒と静寂。祇園の夜はすべてを内包していた。
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