第6話 パトロール
祇園でパトロール、そうダクに宣告されたキツネ。
そもそも、パトロールとはなにか。
なんの力も、権力も持たないキツネが祇園を夜中に巡り歩いてもおそらく、変なのに絡まれてボコボコにされるのは目に見えている。
『大丈夫や、言うてるやんか』
「(何が大丈夫なのだろう)」
『ウチがついてるから』
「(憑いてる、の間違いではなかろうか)」
ダクからの指示通り、父親の遺した着物を引っ張り出し、ダクに言われるまま身にまとう。ほとんど着物を着たことのないキツネは、これでいいのかと不安になる。
『着物警察がなんか言うても、気にしたらあかん。まぁ、深夜にそんな連中は祇園におらんやろうけど』
「着物警察? 」
『着物の着方に因縁つける怖い人らのことや。今は便利な時代やな、ネットつこたらなんでも分かる。でも、その情報が正しいかどうか見極める、リテラシーは……』
「(ああ、知った言葉使いたがる人、いてるよなぁ)」
『なんか、言うた? 』
「いえ、何も」
『とりあえず、着物着て、壁にかかってる白い狐のお面懐に入れて、ウチの竹筒も懐に入れて、出かけよか』
京都に住んで、着物で出かけるというのは中々楽しい経験なのではないだろうか。
それでもやはり気崩れてないか、帯があってないとか思われてないだろうかと不安になる。
『キツネはすれ違うた人の靴の色なんか覚えてへんやろ?人の記憶には限界があるし、見ず知らずの人間の着物なんて、ジロジロ見る人間はあんまりおらん。それこそ、着物警察くらいなもんや』
「自分が注目されてるわけではないんやろうけど、そう思てまうんや、小心者やさかい」
『でもまぁ、様になってるわ。草履履きなれへんかと思たらちゃんと歩けてるし』
「そ、そうかな? 」
『で、や』
ダクの口調が少し変わる。
散歩の時間にしては遅い、午前2時。
祇園の裏通り。一人では歩きたくない時間と場所である。
『懐の狐面、顔にかぶせよし』
「これ、紐ないけど・・・ん、あれ?なんで落ちひんの? 」
『まぁ、ウチの力や。あと、あんた一言も喋ったらあかんえ』
狐面を装着して角を曲がると、袋小路になった奥で一人の男が数人のやんちゃなお兄さんたちに囲まれている。詳細はわからないが、なにか込み入ったお話をしている様子。
「(な、あれは)」
『喋るな言うたやろ』
「(は、はい)」
小声で返事をするキツネ。
『ちょっと動かすえ』
はっと気づくと、キツネの意思に反して体が勝手に込み入ったお話合いの現場に近づく。
「(ちょ、ちょっと)」
キツネは完全にダクの操り人形状態。キツネが拒否すれば状況も変わったかもしれないが彼の中で、これから起こることへの興味が、恐怖を上回っていた。
『お兄さんら、なんや楽しそうやなぁ』
着流しの狐面が、男たちに近づく。
異形感満載のキツネ、中身はダクに一瞬たじろぐ男たち。
「な、なんや、お前!? 」
『ウチは……シュレン』
狐面にこもったダクの声が、祇園の喧騒を伝える路地裏にしっかりと響く。
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