第4話 スマートフォン

管狐改め、ダクは一日2万弱の「維持費」がかかるらしい。

能力を拡張せずに済めば4~5枚、1000円前後というところだが

できることができない、というのはストレスになる。


昔、骨折したときに思うように移動できなかった、それだけでもストレスを感じたキツネ。

ダクにはあまりそういうのを感じてほしくないなぁ、と思ったらしい。


「うーん、アルバイト、ちゅうのもなぁ……」


スマホを操作し、アルバイトの検索をする。

せっかくの邂逅、末永くダクと過ごしたい、キツネの中にそんな感情が芽生えていた。ダクの能力で魅了されたとかそういうことではなく、「山上さんとこのお揚げさんが気に入った」ということに、強烈なシンパシー、いや、エンパシーを感じたらしい。


『キツネ』


ダクはキツネのことをそう呼ぶことにしたらしい。


「ん? 」


『アンタが今触ってる、そのピカピカしてる板は何? 』


「ああ、これは……」


情報伝達の手段として、噂話、かわら版などの情報の取りまとめ、新聞、派生して電信、電話、ラジオ、テレビ、国際電話、インターネットと情報技術が発展したことをかいつまんで説明をする。


『そのを使えば、情報の収集ができるんか』


「そうやな、ん、ああ、そうか」


書斎の机の引き出しから1年前に機種変更したものの手放さず入れっぱなしになっていたスマホを取り出す。充電ケーブルに差し込むと、反応した。


「これは家の中だけでやったら無線LANつないで使えるさかい、触ってみる? 」


使い方、注意事項、「人を騙す連中がいる」ことなどを説明し、ダクに手渡す。

竹筒の中から体を乗り出し、小さな体で器用に操作し始める。


「とりあえず何枚かお揚げさん追加で買うてくるわ。あったほうがええやろ? 」


『今日はあと……10枚くらいあれば助かる』


財布を確認し、ショルダーバッグを抱えて玄関に向かう。


「ダク、じゃあちょっと買うてくる。留守番……というか、誰か来ても、でえへんでええからな」


『了解、気いつけて』


スマホの画面を見ながら、片手間感満載のダクにちょっとだけ寂しさを覚えるキツネ。


『堪忍な、身を乗り出すことはできても移動がでけへんねん』


「あ、いや、え、なんか心読んだ?」


『いや、なんか寂しそうな気配がした』


「いや、あ、なんかごめん」


『なんかようわからんけど。アンタがおもてる以上にうちはキツネにしとるで。食料面だけやのうて、なんか、精神的にも。それだけは信じてな』


「お、おう。俺も多分やけど、自分のこと、自分のおもてる以上に、してる自信があるわ」


『……なんや、それ』


キツネを見やるダク。


「じゃ、じゃあ、行ってきます」


『気いつけて、お早うおかえり』


玄関を出て、朝の散歩コースを再び歩くキツネであった。

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