第3話 お揚げさん

「俺は鷹来恒彦たかぎつねひこ、昔から名前の二文字取って『キツネ』て呼ばれてる。よろしゅう、ダク」


『こちらこそ、よろしゅう』


「破れた御札見たら享保年間に封印されてたようやな。ちょうど300年経っとるわ」


『封印された理由は御札には書いてあんのん? 』


「いや、なんも。ちゅうか、アレやろ。ダクの力を使つこて一財産築いたけどそっちに目ぇいってダクを疎かにした。で、ダクが怒って仕返ししたら封印された」


『な、なんでわかんの』


「人間と物の怪の付き合い言うのはだいたい人間の欲深さで物の怪に迷惑かけてるパターンが多い気がする。特に、『管狐くだぎつね』の伝承はそういう印象が強い」


『……なんか、初めて理解された気分やわ』


「せっかくや、仲良うやっていきたいし、色々俺の研究にも付きおうてもろたら嬉しいかなぁ」


『そうか……300年の知識を埋めたりするのに時間はかかるかも知れんけど、諸々協力する。するさかい、協力してもらわならんことがあんねんけど』


「なんやろ? 」


が75匹に増える、とかいう感じで伝わっとるかもしれんけど』


「それで家が傾くとか、食いつぶされるとか言う感じで伝わっとるな」


『人間は欲深うなると業突く張りになるんよ。を拡張するとその分食べる量が増える。一つずつ能力が拡張されていって、その能力ごとに食べる量が増える。その食べる量が増えることで支払いが少しでも増えるんを嫌がってケチるん。それで我慢せえ、言うんやけど能力拡張の代償やからそれをせえへんことには能力が使えへん。それで最後には大喧嘩になるか、こうやって封印される』


「『管狐』の伝承を調べた第一印象そのままやな」


『わかって……くれるか!』


竹筒から体を乗り出し、咽び泣くダク。


「泣かいでも」


手ぬぐいを差し出すキツネ。


『おおきに、おおきに』


手ぬぐいで涙を拭うダク。


『(チーン! )』


「鼻かむとこまでお約束せんでも」


『うちは嬉しいんや……嬉しいんや……』


「そうか。はい、お茶」


台所で皿を片付け、湯呑にお茶を淹れるキツネ。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


ズズズ……

ダクと向かい合いお茶をすするキツネ。


「協力の内容、多分ダクが食べるもんのことやろうと思うねんけど、お揚げさんだけでええの? 」


『さっきもろたお揚げさん……絶品やった……』


「山上さんとこのお揚げさん、旨いよなぁ。でも、一番は揚げたてやで」


『揚げたて……! 』


「一日何枚くらい食べるん? 」


「さっきの大きさで、今のうちは5枚ほどでええけど、最大75枚」


「あれ一枚250円すんねん。京都のお揚げさんは他の地域とこと違うて大きいんやけど」


『250円って、どのくらいの価値なん? 』


一時いっときで今の2時間やろ、2時間バイト……仕事の手伝いしてお揚げさん8枚分のお給金もらえる勘定かな、だいたいやけど」


当座の問題は、250円×最大75枚=18750円、一日2万円弱の捻出方法。

キツネは腕を組み、考える。


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