第2話 くだぎつね

この物語の主人公、大学生、鷹来恒彦たかぎつねひこ

京都市内の大学で地域伝承などを研究している。


研究内容からか、それとも昔からの妖怪好きが祟ってか、いや、ただ単に名前の中央を抜き取った、彼のあだ名は「キツネ」。


天涯孤独の身ではあるが、親が昔購入した市内の中古物件を手入れしながら生活している。キツネの家なので、通称「キツネ亭」。

ある日、屋根裏の梁に縄で縛られた、お札で密封された箱を見つけた。


「なんやこれ……なんかのもんやったら神社かお寺にもっていかな……」


縄をほどいて、箱に手をふれると古いお札がボロボロと崩れていく。

箱が光り輝き……光具合が鈍くなっていく。


蓋が半分開いて、中から声が響く。


『……封印が……解けた……」


「……(ゴクッ)」


『……お腹……減った……』


「な、なんや……幽霊か、悪霊とか……? でも、お腹……減った? 」


『……! この……! 匂いは……!! 』


「今うちにあんのは……お揚げ……」


『何でもする! 何でもするさかい、お揚げさん……! 』


朝、散歩のついでに近所の豆腐屋、「山上豆腐」で揚げたてのお揚げをつまみ、

家でも食べようと何枚か買ってきたものが台所にあった。


箱を台所まで運び、時間は経ったが今朝揚げたてのお揚げさんを

2枚、皿に盛り付け、差し出す。


箱から飛び出したのは、古くなった竹の筒。

そこから、小さな狐(のような生物)が顔を出す。

お揚げさんに鼻を近づけ、ぶるっと震えたかと思うと


『い、いただきます……! 』


獣のような勢いで(というか、獣そのものだが)お揚げさんを食べ尽くす。


「……こういう時、オレみたいな立場のもんが言う、お決まりのセリフがあんねんけど」


お揚げさんの残り香を名残惜しそうに堪能している謎の生物に、彼は続けてこう言った。


「契約、完了」


『それ、どっちかっちゅうと……ウチのセリフ……? 』


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


『ごちそうさんでした~』


「よろしゅうおあがり~」


『……ちゅうか、あんたヘンやで』


「なにが? 」


『うちが何年封印されてたかは知らんけど、うちみたいな人外のモン、

受け入れるとか』


「ああ、自分、管狐くだぎつねやろ? 」


『……その名前、嫌い』


「家を妖怪、みたいな悪評があるから? 」


『……よう知ってんな……』


「自分をうたモンに、問題ある気ぃするけどな。

……じゃあ、名前をひっくり返そ。忌み名を反転させる定番のやつ。

くだぎつね……ねつぎだく……なんか、ネギつゆだくみたいで、おもろいな」


一人笑い出すキツネ。


『……なんか腹立つ……最後の二文字でダク希望』


「ふーん、ダク。いいんちゃう? 」


「キツネ」と管狐、改め、「ダク」の対話が続く。

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