シュレン〜京都、キツネとダクのちょっと不思議な冒険譚〜

@miyapc

シュレン

第1章 誕生

第1話 シュレン

京都の繁華街、祇園。裏に回れば一見さんでは出てこれないような深い路地がある。


そこで奇妙な……白い狐のお面を被り、着流し姿の人物が数人の男に取り囲まれている。

因縁をつけられたのか、彼らの商売の邪魔をしたのか。

男たちは狐面の人物に襲いかかる。


微動だにしない狐面。

だが、わずか数秒の間に、何人もの男がその場に倒れ込む。

その様子を見ていた、集団のまとめ役らしい男がへたり込む。


「お、お前、何をしたんや!? 」


狐面が、ちらっと男に顔を向ける。


『なんも、してへんよ? 』


「ひっ!」


狐面は男とも女とも取れない、こもった声で応える。

男は腰が抜けて立てないようだ。


狐面はしゃがみ込み、腰の抜けた男に顔を近づける。


『お兄さん』


「な、なんや」


『世の中、物騒やなぁ。道、歩いてるだけで、いきなり絡んで暴力振るわはる人がいてるんよ。怖いなぁ』


「……」


『でな、話、変わるんやけど。に、寄付、募ってんねん。あんたの財布、1万円札だけで58枚、入ってるやんか?そん中から、1枚だけ、寄付、してくれへん? 』


「か、金ならやる、やるから、ち、近寄んな! 」


男は財布を狐面に投げる。


『いややわぁ。それやったら、恐喝みたいやん。1枚だけの寄付で結構です』


財布から1枚、1万円札を取り出して財布を男の口に突っ込む。


「ぶほっ」


『この辺は物騒。また絡まれたら、また、寄付、募らんならん』


「・・・」


『あんまり派手にやらんほうが、ええよ?恵まれへん人が、裕福になってくさかい』


ぶわっとつむじ風が巻き上がったと同時に、狐面は姿を消す。


倒れた男たちと、あまりの恐怖に失禁し、口に財布をくわえた男。

財布が口から落ちる。


「あ、アイツが……シュレン……? 」


繁華街の明かりはそんな闇を照らす暇はない、とでも言いたげに

四条通を照らしていた。


つむじ風とともに消えた狐面。

鴨川を望む南座の屋根に腰掛け、今日の稼ぎを勘定していた。


『12万円。世知辛い世の中にもの人って、いるんやなぁ』


「ダク。ホンマに大丈夫なんやろうな」


『ちゃんと恵まれない人に寄付するんやから、問題ないやろ』


「その恵まれない人って」


『物の怪に取り憑かれて日々のお揚げ代を捻出せなあかん大学生』


「俺やんけ」


『まぁ、物の怪ちゅうカテゴライズはいいかげんすぎるやろうけど』


一人でやり取りをしているように見える、狐面の人物。

京都の町では「シュレン」という名で呼ばれている。

の人のうち、何人かがその名を聞いてそれが噂となって広まったらしい。


これは不思議な力を手に入れた、大学生のお話。


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