第2話「白い天井、身に覚えのある場所」
「ちょっと待ってくれよ。おい、ちょっと暴れるな」
木の上に登って降りられなくなっている子猫の三毛猫が俺の手をひっかいてくる。
「「「にゃーにゃー」」」
地面にはその家族だろうか、三毛猫の子猫たちが鳴いていた。俺はその猫たちをチラリと見て息を吐いた。
「しょうがねぇなぁ、もうまったく」
歯を食いしばり、慣れない木に足を掛けて、ようやく暴れる猫を手で掴む。攪乱し、暴れる猫を腕でギュッと握りしめて、
「大丈夫だから、大丈夫だから」
と三毛猫の子猫に言い聞かせた。子猫の三毛猫はチラリと俺を見ると、スッと大人しくなる。いい子だ。大人しくなったと同時に、俺は木から腕に抱えている猫を下に落とさない様にゆっくりと降りる。その時だった。腕に抱えていた三毛猫がいきなり噛んできた。びっくりした俺は地面に着地する時に足をひねり、背中から着地していた。着地に失敗してしまったらしい。
「ううう、こいつ……」
「「「にゃにゃー」」」
地面に居た猫達が腕に居る三毛猫に近づいてくる。意識が薄っすらと遠くなる。腕の中に居る三毛猫が俺の顔をペロリと舐めた。
「にゃーにゃー(ありがとう、名前の知らない男の人)」
ん?なんだ?言葉が脳内に浮かんできて、あーダメだ。このまま意識が遠くなっていく。瞳を閉じた瞬間、俺は意識を失った。
「ううう……」
瞳を開けると白い天井が目に映った。きょろきょろと周辺を見渡すと、俺はベットの上に寝転がっていた。隣には白いベットがあり、奥の戸棚には薬品が置いているのが見えた。見慣れた場所だったので俺は肩の力を抜き、息を吐く。
「保健室のベットはどうかしら?南先生。今日は何をしていたの?また危ない事?」
白衣を着た背丈まである茶髪をロール状に巻いている女性が缶コーヒーを一口飲んでから訊いてきた。その女性の背は150センチぐらいで貧乳だ。顔は整っていて見た感じのイメージはリスだ。ちなみに俺とは一個上の先輩だ。
「相沢先生!いやー、今日は木に登った三毛猫を助けてて」
「それで旧校舎で気を失っていたと」
相沢は手に持っているコーヒーをごくりと飲み干すと、缶と書かれたゴミ箱に入れる。再び戸棚近くにある段ボールの中からコーヒー缶を取り出し栓を開ける。
俺は相沢先生が飲んでいるコーヒーの種類に目が入る。
「今日は微糖なんですね。なんかいい事でもあったんですか?」
「ふふ、そういう事にはすぐに気が付くのね」
相沢は口角を少し上げてこっちを見る。予想は当たっていたみたいだ。相沢は段ボールから一本の缶コーヒーを取り出した。
「今日は気分がいいからあんたにあげるわよ。今日だけ特別」
「ありがとうございます。でなんです?いい事って?」
俺の返答に相沢はスルーし、時計をチラリと見る。俺の顔を見ながら息を吐く。
「そういえば今昼間なんだけど、授業の方は大丈夫なの?」
「え?今ってうわ、今から行ってきます!また教頭に怒られる」
勢いよくベットに飛び出すと、右足が軽く痛みが走る。俺は痛みから「うう」と疼くと、相沢は「もう」とだけ言い、棚から湿布薬を取り出す。
「足を出しなさい。痛いんでしょ、治療は早いほうが完治しやすいわよ」
俺は相沢先生の好意に甘えることにした。女性から貼ってもらえるのはご褒美だ。足を出すと軽く腫れていた。相沢は簡単に湿布を貼ると「ハイ終わり」とだけ言い、相沢先生専用の椅子に座った。仕事は終了したみたいだ。
「ありがとうございます、それじゃ行ってきます」
俺はペコリと頭を下げて言う。相沢は右手を軽く上げて俺を見送ってくれた。同時進行で何かを書いていたので顔はうつむいていた。
「今日も疲れた……」
俺は鞄を持ち、帰宅すべく学校を出た時にはもうすでに夕方の時間帯を過ぎ、星がキラキラと輝かせた時間帯になっていた。腕時計を見ると既に九時を回っていた。
なぜこんなにも遅くなったのかというと教頭の説教も原因がありながらも、なんだか頭がぼーとしてて明日の準備に手間取ったからだ。打ち所が悪かったのだろうか。なんだか心配になってくる。
「明日病院にでも行ってみるかな……」
俺は深いため息を地面にぶちまけるように吐く。すると背中から「おい!」と大きな声が聞こえてきた。俺は瞬時に振り向いたが誰も居ない。居るのはあくびをしている白猫一匹のみ。俺は幻聴でも聞こえたのかと目をつぶり、頭を掻く。俺の頭はヤバいのかもしれない。救急の病院今から開いてるとこどこかな?
俺はスマホを開き、脳外科のある病院を検索していると再び「おい!聞こえてるんだろ」と男の声が聞こえてくる。
とりあえず俺はその声を無視することにした。次第に速足になっていく。やばい、なんで誰も居ないはずの道路から他人の声が聞こえるんだ。おでこから脂汗が出て、手が震えだす。落ち着くんだ俺、大丈夫、幽霊なんてこの世に居ない。スピリチュアル現象なんてこの世に存在なんてしないんだ。
「おい、落ち着けよ。ボクは幽霊なんかじゃない。目の前を見やがれ!ボクはお前に依頼を受けてもらいたい」
今度は目の前から聞こえた、さっきまであった後ろからの視線はなくなって居ることに気付く。
「お前は誰だ?どこに居やがる?」
大声で俺は言う。近所迷惑?そんなの知らん。大声ださないとやってられんのだ。
「はー。マジで見えてないんか。下だよ、下」
声のあった通り、俺は下を見ると、白猫がちょこんと座りながら俺を見つめていた。
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