第20話 たまには冒険者と一緒に

 一緒に仕事をしないかと冒険者のパーティに誘われ、そういえば冒険者が当たり前にやってることは知らないなと思った私は、引き受けることにした。

 盾持ち一人、剣使い一人、魔法スキル一人――男、男、女のパーティだ。

 依頼の内容はダークハウンドの討伐、ないし調査だ。

 なんでも、白トカゲがいた場所に、まだ二匹くらい残っているらしい。

 図鑑を見て覚えたことを参照すると、ダークハウンドは魔族領にいた黒い狼の下位種族だ。認識としては、それなりに強いらしい。

「強いっつーか、素早いんだよあれ」

「あと攻撃力もありますよ」

 剣使いのぼやきに、盾持ちが応じる。戦闘経験があるらしく、聞けば、三人はCランク冒険者を、もう長くやっているとのこと。そろそろBが見えてきたとか、なんとか。

「クロちゃんはパーティ組む予定とかないの?」

「まだ学生。……一応だけど。それにメリットがよくわかってない」

「あーそっかあ」

 おおよそ三日の距離。つまりその間は馬車に乗ったり、歩いたり、暇潰しの会話はこういう感じの世間話だ。

「そもそもパーティって、男女複合が多いのね。うちみたいな三人は王道かな」

「前衛二人、後衛一人は本当に王道だよな」

 役割分担か。

 うーん、そういうのは教えて貰ってないなあ。

「全員男ってのは珍しいけど、全員女ってのは少なからずいるかな」

「へえ……男女のトラブルとかは?」

「あんまりないわね。うちだって、仕事の付き合いみたいなものだし。同職結婚もそれなりにあるけど、同じパーティってのは少ないかしら。避けてるところもあるけど、いつ死ぬかわからん相手は嫌だし」

「気が合うからやめとけってのが通説だぜ。喧嘩になるし、嫁にゃ勝てんって野郎が多すぎる」

「僕みたいに、信じて待ってくれている人の方が、好まれますね。僕としても、だったら生きて戻ろうと、身を引き締めてますから」

「そのお陰で、俺もてめえだけは死なせちゃならねえと、思うんだけどな?」

「それはどうも」

「……三人はどういうきっかけで?」

「気が合う者同士、こういう合同依頼を切っ掛けにする連中もいるけど、俺らは同じ学校なんだよ。俺が一年先に卒業して、こいつらが一つ下の後輩。まあたかが一年だ、冒険者になってからは肩を並べてる」

「へえ、学校の」

 聞けば、私の通ってる学校だった。

「冒険者になる人もいるんだ」

「少なからずいるぜ。つっても、大変なんだけどな……」

「私らは、親がそれなりに立場のある……爵位を持ってたから、それなりの仕事に就けってうるさくて。まずは親の説得から」

 あーうん、そういう連中いるね。結構いる。

「というかクロちゃん、学校に通ってるの?」

「たぶん。たまに魔法スキル教員から呼び出されるし」

 魔族教員、いろいろと研究してるみたいで、話も合うのだ。

「ああ、あの先生、私もだいぶ世話になったわ」

「物腰が優しいのに、やたら厳しい印象しかねえよ」

 小さな村などに到着してからは、歩きだ。村の規模だと、馬車は止まるが、人が泊まれる場所がなかったりする。

 また、冒険者にとって仕事以外で、村という規模の場所に居座ることは避けるそうだ。

「なんていうか、閉鎖的なのよね」

「ここらの村で嫌われるって話もねえが、やっぱり冒険者っつーと、魔物を呼び寄せる印象があるからなあ」

「もちろん、討伐依頼などは別ですが……」

 さすがにこの仕事が長いだけあって、彼らの話はためになる。

 夜間の見張りも交代制。彼女が結界を張るのでうたた寝も大丈夫らしいが、私にとってはそれ以上の問題があるので、睡眠はとれない。


 三日後。

 目的地に到着した頃には、私の睡魔が限界に近かった。


「なにクロちゃん、また寝てないの? 大丈夫?」

「だいじょぶ、大丈夫……」

「どうして寝ないんですか? 人がいると寝れない――とか」

「ああうん、や、うん」

 くそう、眠い。

「睡眠時は最大警戒だから、反射行動が多くて」

 無防備になるから、常に警戒しろと、夜間に何度も蹴り飛ばされて起きた。つーか起こされた。中尉殿は笑いながらやるからいかん。

 だから、寝ぼけながら反射的に対応するよう仕込まれたわけで。

「うん、寝てる時に触れられたり、なんかあると、反射的に殺しちゃうから、ね? なんか、うん、あははは、起きたら死んでたって笑って済ませてくれる?」

「済ませられないわよ!」

「気遣い、ありがとうございます……」

「わかるような、わかんねえような……いや、わかりたくねえのか、わかってもできねえよ」

「うん、うん」

 あー本当に眠い。どうしよう。

 うつら、うつら。

 睡眠の重要性は知っているつもりだけど、どうしたって眠れない時もあるわけで。

 さすがに三日目はなあ……。

 二時間……いや、一時間も眠れば、たぶんいけるのに。

 耐えろ。

 がんばれ。

 ああー、昨日までは変な思考帰結ばっか訪れてたけど、今は何も考えられない。

 眠さ中心。

 ただ、それなりに頭が回っているのは確かで――正常かどうかは知らん。

 ……。

 …………。

 あ?

 ああうん、うん、聞いてるだいじょぶ。

 うん。

 ……。

 …………。

 ――あ?

 あーそっか、そっか、森に到着したんだ。うん、あーなんだこの犬っころ。眠いのか? 口開けて、あくびか? あ、それしてるの私か。

 なんだよもう、いきなり目の前に出現して。

 うるさい。

 まずは口を閉じろ。よし。ええと……討伐だっけ? まあいいや、ナイフ、腹。よし。

 血抜きしないとなー、影からロープ取り出して、両足縛って、木に引っかけて。でも小さいなこの犬っころ。肉あんのかな。

 後ろから来た。しゃがんで避けて、真上を叩く。ナイフ。よしよし。

 えーっと周囲に魔物は……あんまいないな。

 なんだっけ。

 標的が、ううん、えー思い出せんぞ。

 まあいいや、寝よう。

 そうだ寝ればいいじゃないか! 私は眠いんだから!


 ――私は。

 おおよそ一時間ほど、木にもたれるようにして眠っていたらしい。


「んあ……ん、あー寝てたか」

「起きましたね」

「ん?」

 はて、そういえば冒険者のパーティに同行していたのは覚えてるけど。

「あれ、仕事は?」

「お前が勝手に終わらせただろ……」

「……そう、だっけ?」

「そこに吊るされてる二匹が標的よ。周囲は改めて確認したけれど、ダークハウンドはいなかったわ。巣もなし」

「寝てる間に解体したぜ? 素材は依頼達成の証明になるし、加工屋に持って行けば稼ぎにもなる」

「うん」

 それはいいんだけど。

「なんで内臓抜いてないの? 血抜きはしてあるのに。あーそっか、普通は食べないか。でも食べれるから覚えておいた方がいいよ」

「へえ……」

「では食べてみますか」

「仕事は終わりだが、どうする? 近くの町で休んでくか?」

「んー? 先に帰ってていいよ。食べたらここで寝るから」

「ここかよ……」

「仕事終わったし」

「一緒にいたら寝れないのはわかるけど、こんなところでだいじょう……ああ、そうね。立ったまま寝てて、ダークハウンドをあっさり討伐したわね」

「あー犬っころね、うん、なんかいたから」

 目の前にいたら、そりゃやるでしょ。邪魔だし危ないし。

 欠伸を一つ。

「ギルドへの報告は任せた。報酬は……あー、適当に。家があるから、そこに」

「今、解体してるから、食べるまで寝ないでよ?」

「うん、うん、聞いてる」

「まったく……家があるの? イェールに?」

「うん、ねこ……ニーニャの家だけど、まあ、うん。あふ……」

「もう」

 しょうがない、眠いんだもの。

 一時間でだいぶマシにはなったが、まだまだ寝足りない。

 次回からこういうことがないよう、対処しないとなあ……あふ。



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