第8話 誕生日、ショッピングモール

みんなは、秋って言われてどんなイメージがある?

夏と冬の間?

なんとなく寒くなってくる季節?

紅葉?

それとも食べ物?


色んなイメージがあると思う。

でも、私にとっては一年の中で、一番特別な季節。

夏と冬の間、ちょっと寒くなってきてコートを引っ張り出したり、窓の外の木が紅く染まってきたり、ご飯が美味しかったり。

私の誕生日は、そんな秋にある。


そして、今年はもっと特別。

だって今年は、私が優くんと付き合って、最初の誕生日。

それに、人生で初めてのデートの日。

高校3年生で初デートって一般的には早いのか遅いのかわからないけど、他の人と比べるなんてバカらしいよね。

今日は11/13だから、明日が私の誕生日。

明日が楽しみだけど、そろそろ寝ないと。

初デートにくまを作っていく訳にはいかないしね。

じゃあ、おやすみなさい。






目覚まし時計の音で目が覚める。

今日は11/14。

私の誕生日。

木曜日なんだけど、学校の設立記念日だかなんだかで今日は1日お休み。

そして、優くんとの初デートの日。


来ていく服は昨日の夜に選んでおいた。

(朝バタバタしちゃうのも落ち着かないしね…)

着替えるのは後にして、リビングに向かう。

まずは朝ごはん作らないと。


部屋を出て階段を下りると、こんがり焼けたトーストの良いにおいがする。

「おはよう、茜!」

「お誕生日おめでとう!」

「ありがとう、お母さん」

お母さんがいつもより早く起きてご飯を作ってくれてたみたい。


テーブルにはこんがり焼けたトーストとスクランブルエッグ、カリカリに焼いたベーコンとサラダが準備されていた。

冷蔵庫からオレンジジュースを出し、トーストにジャムを塗って朝ごはんを食べ始める。


(やっぱりお母さんは料理上手だな)

私が作ると卵は焼きすぎて固くなっちゃうし、ベーコンはどうやったらこんなにカリカリに焼けるのかわからない。

(今度ちゃんと教えてもらおう)

「ごちそうさま!」

そう言って洗面所へ向かう。


寝癖を直して歯を磨いてから、部屋に戻って昨日選んだ服に着替える。

姿見の前で一回転。

ロング丈のフレアスカートに白いシャツとちょっと袖の長いニットのカーディガン。

(よし、大丈夫!)


「茜ー!優くんが来たよー!」

「今行くー!」

12時ちょうど、時間ぴったり。

ドキドキしながら階段を駆け下りる。

玄関前で優くんとお母さんが話していた。

優くんは青いジーンズにチェックのフランネルシャツと黒いカーディガン姿。

「おはよう!優くん!」

優くんもこっちに気づいておはようと返してくれる。


「それじゃあ、行ってきます!」

「行ってらっしゃい!」

お母さんが元気な声で送り出してくれる。


「ねぇねぇ、今日はどこ行くの?」

「パークスに行こうと思ってるんだけど、どう?」

「いいね!あそこなら1日遊べそう!」

パークスは地層を模した外見のショッピングモールで、映画館や無料で見れるフラワーガーデンもある。イベントも年中やってる。


家からちょっと歩いて、地下鉄に乗って1時間くらい。

お話をしているうちにパークスの最寄り駅に到着。

「まずはご飯にする?」

「そうしようか」

二人でレストラン街を歩きながら入るお店を探す。


『ランチセット、焼きたてパン食べ放題!』

そんな文字が飛び込んでくる。

「優くん!ここにしよ!」

優くんも少しメニューを眺めて、

「いいね、ここにしよう」

ベルを押すと店員さんが来て席まで案内してくれる。

「こちらの窓際のお席へどうぞ」

「少しメニューの説明をさせていただきます」

店員さんの説明を聞き終わってメニューを見る。

(ハッシュドビーフ美味しそう!私はこれにしようかな…)

優くんを見ると彼ももう決まってるみたいで、

「店員さんよぼうか」

「うん」

店員さんが来て、優くんが注文をしてくれる。

「この子、今日誕生日なんです」

優くんがおもむろにそんな事を言うので驚いていると、

「何か誕生日のわかるものをお持ちですか?」

店員さんが言うので、言われるがままに学生証を見せる。

「お誕生日おめでとうございます」

「ささやかですが、お店から食後にケーキをサービスいたします」

そう言って店員さんは去っていった。


「どういうこと?」

「入り口でメニュー見たときに誕生日の人はサービスするよって書いてあったから」

(それで言ってくれてたんだ…)

「ありがとう、優くん」


しばらくして注文した料理が運ばれてきた。

私はハッシュドビーフ、優くんはハンバーグにしたみたい。

「パンはセルフサービスだって」

「取りに行こうか」


食べ放題と言うだけあって色んな種類のパンがあった。

あんパン、フレンチトースト、さつまいものパンに、ピザまで!

「食べ放題着いてるだけですごいお得な感じしない?」

「そうだね、甘いパンがいっぱい食べれるのは嬉しいね」

心なしかワクワクした顔で優くんが言った。

意外と甘党らしい。

(そういうところが可愛いんだよな)


そんな感じで食事を終えて、お店からのケーキも二人で半分ずつ食べた。

「美味しかったね!」

「うん、もうお腹いっぱいだよ」

「次はフラワーガーデンに行こうか」

「いいね」


お店の外にあるフラワーガーデンでは、太陽の光を浴びた花たちが、風に吹かれて楽しそうに揺れている。

「秋って紅葉のイメージしか無かったけど、こんなに綺麗なお花があるんだね」

「僕も秋は暖色系のイメージかな」

「茜の誕生日の季節だし…」

ボソッと呟いて赤くなる優くん。

(慣れないこと言うから)

なんか私の彼氏ってそこらの女の子よりも可愛いかも。


ゆっくりお花を見た後は二人で映画を見た。

よくあるヒューマンドラマ系の映画だったけど、最後は結構感動した。

「ちょうどいい時間かな…」

優くんが時計を見て呟く。

17:30。

(外も暗くなってる時間かな)

デートの終わりが近づいてるのを感じて少し寂しくなる。

「行こうか」

「うん…」


外に出ると、たくさんの光が輝いていた。

クマの形をしていたり、星や花の形もある。

色んな色の光が形を作って、暗くなった空に別の世界が映し出されたみたい。

「綺麗…」

「この景色を二人で見たかったから、ここにしたんだ」

「初デートだし、茜の誕生日だから想い出に残るものにしたくて」

「嬉しい、ありがとう!」


その後は二人でイルミネーションを楽しんで、優くんにお家まで送ってもらった。

「今日はホントにありがとう!」

「すっごく楽しかったよ!」

「喜んでもらえると、僕も色々調べた甲斐があった

よ」

そう言って、優くんはカバンの中からラッピングされた箱を取り出す。

「茜、誕生日おめでとう!」

「ありがとう!」

「開けてもいい?」

「もちろん」

丁寧にラッピングをといて箱を開ける。

中から出てきたのはハート型のネックレス。

それを箱から取り出して、

「着けてくれる?」

優くんに言う。

「喜んで」

私は優くんにネックレスを渡して背中を向ける。

優しく、チェーンが首に回される。


「どう?似合ってる?」

「うん、とっても可愛いよ」

「ありがとう、大事にするね」

優くんと付き合ってから、初めての誕生日プレゼント。

(今日は今までで最高の誕生日だったな)

(来年も、その次も優くんと一緒にいたいな)


そんな二人を祝福するかのように、秋の夜空で星が輝いている。

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