第7話 居残り、教室
教室の窓からは、グラウンドを走る野球部員が見える。
彼らの大きなかけ声は閉じた窓越しにもはっきりと聞こえる。
しかし、私にはそんな事関係ない。
(部活にすら入ってないしね…)
なぜ帰宅部の私が放課後も教室に残っているかというと、担任から居残りを言い渡されたからだ。
理由は担任の受け持つ現代文のテストで赤点を取ったから。
私の学校では赤点を取った生徒に居残りをさせ、最後の確認テストで平均点が取れれば赤点取り消しという救済措置がある。
「何でお前はいつも俺のテストだけ赤点なんだ?」
「一応お前の担任だぞ…」
そう言いながらめんどくさそうに黒板を埋めていくのが私の先生。
私とはちょうど10歳差の25歳、なんだかんだ言って面倒見がいいし生徒と年齢も近いから結構評判の良い先生だ。
さっき先生が言ったとおり、別に私は勉強が苦手な訳じゃない。
ただ、現代文のテストだけは高校に入ってから毎回赤点を取っている。
だって、この居残りの間だけは先生と二人きりだから。そんな事を考えている間も、先生は手を動かし続ける。
チョークが黒板を打つ音が止み、先生が振り返る。
「じゃあまず、ここから説明していくぞ…」
そう言って先生が話始める。
昔の人が書いた小説の話とか、その人の人間関係とか。
授業の時よりもちょっと丁寧で、クラスメイトの声も無いから聞き取りやすい。
(恋は罪悪、か…)
先生が読み上げた言葉が胸に刺さる。
(まるで私のことを言ってるみたい…)
チクチクと胸が痛くなる。
でもこれもきっと先生が好きだから痛いんだ。
(きっとこの想いを伝えることは無いけれど…)
(心の中で想ってるだけならいいよね…)
大好きな声を聞きながら、私はおもむろにこんなことを口にしていた。
「先生、今日は月が綺麗ですね」
先生は一瞬驚いたように目を丸くして、すぐにいつものめんどくさそうな顔にもどる。
「まだ月なんて出てねぇよ…」
そう言って、また説明を再開する。
窓の外では、まだ野球部員の元気な声が響いている。
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