第4話 11/11、帰り道

「ねぇ百合那、今日ってなんの日か知ってる?」

夕陽でオレンジに染まった帰り道で、クセのある明るい茶髪をショートにした少女が隣を歩く少女に楽しそうに問いかける。

「急にどうしたの?」

艶のある黒髪を腰まで伸ばした少女、百合那は不思議そうに首をかしげる。


「いいからいいから!」

(この子はいつも楽しそうね)

百合那はそんな彼女を微笑ましく思いながら、

「ポッキーの日でしょ…」

その答えを聞いて茶髪の少女は嬉しそうに、

「当たり!」


百合那は元気の良い少女を見つめて、

「美花はほんとにそういうの好きよね」

美花と呼ばれた少女は当たり前じゃん!と返しながらスクールバッグをあさっている。


(まさか…)

「なにしてるの?」

百合那は苦笑いを浮かべながら美花に尋ねる。

美花はにやりと笑ってスクールバッグから長方形の箱を取り出した。


「ポッキーゲームしよ!」

(やっぱり…)

人通りが少ないとはいえここは外なのだ。

少しは場所を考えて欲しい。

しかし、美花の純粋な目で見つめられると断ることなんてできるわけない。


百合那はため息を1つついて、

「1回だけよ…」

「やった!」

美花は嬉しそうに跳び跳ねる。


美花がポッキーを一本箱から取り出し口に咥える。

(可愛い…)

写真でも撮りたいところだが仕返しは避けたいのでグッとこらえる。

百合那も恐る恐る反対側の端を咥える。

(こんなに近いの!?)

百合那が驚いていると美花はこちらに向かって少しずつ食べ進めてくる。

(ちょっと待って!)

短いポッキーがさらに短くなり、お互いの息すら感じられそうなほどに顔が近づく。

あと少しで唇が触れあう。



ポキッ

軽快な音を立ててポッキーが折れる。

百合那は顔を反らし、美花は楽しそうにポッキーの残りを食べきって、

「私の勝ち!」

そう言った美花の顔は赤く染まっている。

「そうね…」

百合那は顔を反らしたまま先ほどの感触を思い出して赤くなる。


(キスしちゃった…)

唇の先が少し触れるだけの幼いキス。

それでも百合那には十分刺激的だった。


「百合那赤くなっちゃって可愛い!」

美花が茶化すように言ってくる。

「美花だって真っ赤じゃない!」

茶化された百合那が見上げると美花の頬も朱に染まっていた。

「私のは夕陽のせいだもん!」

美花は慌てて否定する。

「私だって夕陽のせいよ!」

百合那も同じ言い訳。


しばらく2人は見つめあって、同時に笑い合う。

「なによ夕陽のせいって、今時そんな言い訳誰もしないわよ」

「百合那だって言ってたじゃん!」


そんな2人を照らした夕陽が少しずつ落ちていく。

暗くなり始めた空を見て、

「帰ろ」

「そうね」

2人はまた歩きだす。

お互いを確かめ合うように手を絡めながら。

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