第3話 雨宿り、バス停
冬の冷たい雨が降っている。
ひび割れたアスファルトに激しく打ち付ける雨を1人で見つめながらため息をつく。
「天気予報見とけば良かった…」
小さな木造のバス停で、少年が誰にともなくそうこぼした。
少年の着ている学校指定のブレザーとズボン、そして箪笥から引っ張り出したばかりのカーディガンはどれも雨を吸って重くなっている。
冬の冷気が濡れた衣服を通って体を冷やしていく。
このままだと風邪をひいてしまうかもしれない。
(走って家に帰るか…)
少年の家までここからなら走って15分ほどで着く。
2時間3時間に1本のバスを待つよりは現実的だ。
そう思って走り出そうとしたところで、傘が雨をはじく音が聞こえてきた。
音の方を向くと、いつからいたのか小柄な少女が大きな傘を持って立っていた。
「先輩…天気予報見てなかったんですか?」
小柄な少女にそう言われて気づく。
彼女も同じ制服を着ていることに。
少女が傘を少しあげて顔が見えた。
その顔を見て納得した少年は少女の質問には答えずに、
「お前こそ…今日は部活も無かっただろ…なんでこんな時間に1人で帰ってるんだよ」
少年は秋に友達に連れられて入部してきた少女にそう問いかける。
すると少女は少し恥ずかしそうに、追試があったんですと返した。
少女は一呼吸置いて、
「そんなことより…先輩、一緒に帰りませんか?」
風邪ひいちゃいますし、と言って傘を差し出してきた。
(1人で15分も濡れながら帰るなら、この子とゆっくり喋りながら帰るのも悪くない)
同じ部活とはいえ入部したばかりの彼女のことを少年はほとんど知らない。
しかし、自分に傘を差し出してくれたこの少女のことを少し知りたいと思った。
だから、少年は少女の差し出した傘を取ると
「お言葉に甘えるよ」
照れ隠しのように丁寧な言葉を使って、
「帰ろうか」
そう言って2人は歩きだす。
1人には大きく、2人には少し小さな傘を分けあって、他愛ない話をしながら。
先ほどまでの寒さはもう感じない。
2人の後ろで雨は止み、虹の橋がかかる。
言葉を交わしながら前だけ見つめる2人は、その虹には気づかない。
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