強盗 3

その当時こそ笑い飛ばした。

が、後日飯塚がめずらしく鵜飼を飲みに誘った。


『すげーものゲットしたんすよ!』


子供ように目が輝いていた。


飯塚はドデカいリュックの中からモデルガンを取りだした。その時点ではそれがあくまでもモデルガンに見えた。


何処にでもあるような(日本にはあるところにしかないが)オートマチックの拳銃である。


『あー、サバゲーとか好きなの?』

鵜飼は煙草の煙を吐くついでにいった。


『サバゲーなんてやんないっすよ!コミュ障になに言うんすか。これ、本物です。』


飯塚が言うとどれも嘘に聞こえてしまう。

常に半笑いだからだ。

例えばこいつが『俺癌なんですよ』と言い出したら誰もが『あっそ。頑張って。』と返すだろう。


『へー。それ何かに使うの?』

鵜飼は興味無げに言った。


『こないだの話忘れちゃいました?』


『こないだの話?』


『店の売り上げ攫っちゃいましょって話!』


飯塚は楽しそうだ。カルピスサワー半分しか飲んでいないのにもう酔いが回ったか?

しかし飯塚は畳み掛けた。


『弾は5発買いました!』


『いやいやいや、え?まじなの?』


『なにがっすか。まじですよずっと!』

と言って半笑いな飯塚。

真剣に聞いて貰えないのは自分に責任があるぞ、と鵜飼は余程言おうかと思った。   


飯塚はふいに銃を鵜飼に手渡した。

ここは客の大半が年寄りの場末も場末の個人経営の居酒屋である。憚るような人目などない。


『重たっ。』

『でしょ?本物は重たいんです。』

『偽物も持ったことねーけどな。これ弾どうやって取り出すの?』

『ここカチッと。』

マガジンがゴトッとテーブルに落ち、アルミ製の安灰皿がひっくり返った。


『お兄ちゃんたち、テーブル壊さないでねー。』

カウンターの奥からマスター(70過ぎと思しき老婆)がチクリと言った。

 


『なにこれ…やめてよ飯塚くん、まじじゃん…。』


『めちゃ似合いますよ鵜飼さん。』

飯塚は笑う。

確かにこのスキンヘッドに拳銃。

絵に描いたような組み合わせだが。


『銃あったって簡単に出来ないでしょーや?』


『いやいや、ちゃんとプランがあるんすよ。』


飯塚のプランとはこうだった。



パチンコ店は22:30に閉店になり、その約一時間後にスタッフ全員がはける。


そこを狙う。


パチンコ店は通常集金は日中行われ、その金はすぐさま鵜飼たちとは異なる警備員おつきのもと、現金輸送車に運び込まれる。


『え?そこ狙うの?』

『いや最後まで聞いて下さい。』


これが通常の店の集金の流れだが、鵜飼たちが派遣されている店は特殊だった。


飯塚曰く、恐らくはあの店は地元ヤクザのマネーローンダリングに使われているのであろうとのことで、店内に現金を保管してあるはずだと。


『えー…ヤクザ敵に回すじゃん…。』

『ヤクザみたいな顔して何言うんすか。あっはっはっはっは!』


飯塚は陽気である。

何故こんな奴が虐められたのか。

こんな奴だから虐められたのか。


虐めは許せないが異分子を排除しようとする本能も捨ておけないなと鵜飼は思った。

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