強盗
元はと言えば飯塚のせいだ。
30分ほど前。
『飯塚くん、真っ直ぐ走れよ!』
鵜飼は金の入ったバッグを乗せた台車を押す飯塚に怒鳴った。
『前の車両が片方イカれてるんすもん。めっちゃ押しづらいすよー。』
飯塚が緊張感のない泣き事を言う。
こいつの誘いに乗ったのは間違いだった。
鵜飼は改めておもいしらされた。
この飯塚くんこと飯塚幸一は鵜飼のアルバイト先の後輩である。
警備のアルバイトで知り合い、以来飯塚はプライベートでも事ある毎に鵜飼に駆り出されている。
「少し頭が足りないが、そのお陰で付き合い易い」と言うのが鵜飼の飯塚に対する印象であり、言葉にすると見下した印象だがそれとは裏腹に鵜飼は飯塚を重宝していた。
今年で三十路に突入する鵜飼には友達の一人もいなかったからだ。
とは言え鵜飼としては前途ある25歳の若者を「こんなこと」に巻き込んでいることに対して幾らかの罪悪感がないでもなかった。
正確には巻き込まれているのは鵜飼だったが。
『追って来てます!?』
飯塚が尋ねた。
『来てねーよ!』
鵜飼は振り返りつつ言った。
『車まで戻るの無理じゃないっすか?』
『…どうする!?』
鵜飼は年下にアイデアを迫る己に不甲斐なさを感じた。
『立て篭もりましょっ!』
飯塚は息を切らせつつ立ち止まり、言った。
『あ!?』
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