第73話 汽車で①
「ギーン」
俺の名前を呼ぶ声がした。声の持ち主はランだ。
「はーやーく」
ランは俺を急かしている。ただ、俺はそんなに急かされたところでどうにもできない。やるべきことはしっかりやらないといけない。
さて、今俺達は何をしているというと……。
「早くしないと汽車出ちゃうよ!」
「わかってるって!」
今はエイジアの中心にあるセントラルステーションにいる。俺は切符を買っているわけなんだがどうやら目的の汽車はもう少しで出発してしまうらしくランが俺を急かしているというわけだ。ただ、急かしたところで切符が買えなければどうにもならない。俺は切符を買うために長い行列を並んでいた。自分の番まであと2人というところだろうか。
「早く早く」
わかっていると何度も言っているはずなのにランは俺を急かしてくる。困ったものだ。
俺は何度も何度も急かされながらもどうにかすぐに順番が回ってきたおかげで切符を買うことができ汽車にギリギリのタイミングで乗ることができた。
シューポッポー
俺達が乗り込むと同時に扉は閉まり汽車は大きな汽笛を上げて走り始めた。
「あぶね」
「だから早くって言ったのに」
「仕方ないだろ、順番は守らないといけなのだから」
「そうだけど……」
俺とランは言い合いを始めた。仕方ないじゃないか俺はしっかり順番を守った結果なんだし乗り遅れるという最悪の結果にはならなかったのだからいいだろうと俺が最後に言うとランもおとなしくなってくれた。最初からおとなしくしてくれれば可愛いのにと俺は言いかけたがぐっと抑えて言わなかった。
「えっと、席でも探すか」
俺はランにここで立っていても仕方がないから座るために席を探そうと提案し隣の客車に乗り込み空いている席を探し始めた。席はすぐに見つかった。俺達はその席に腰を掛けてしばらく妙な間が空いた。
「……」
「……」
えぇ~と。この空気は何なんだ。俺達は幼馴染だし付き合いが長いから一緒に二人きりになったら話が無くなるということはほとんどなかった。なのに、今日はどうしたんだ。そう思ったがそんな俺もランに話しかけようとはしなかった。
「……」
「……」
その後もしばらく無言の時間が続いた。この沈黙はいつまで続くのだ。俺はそう思っていた。ただ、ついにこの沈黙に耐えることができなくなった俺は声を発した。
「ラン」
「ギン」
見事にランと声が重なった。
「ランの方から話なよ」
「ギンこそ」
お互いに譲り合う。そして、また長い沈黙の時間が始まる。
「……」
「……」
……何なの、この空気。これじゃまるで気まずい空気の恋人じゃないか。俺達は幼馴染だからそういう関係じゃないからこんな気行くになるはずなんてないのにどうしてこうなったのだ。
「ラン、ちょっと待ってて」
「どこに行くの?」
ランにどこに行くと聞かれたが俺はその問いには答えず席を立った。
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