第71話 ラン
ラン=メイシェン。
俺の幼馴染の名前だ。家も近所だった。俺と同じく二級魔術師だった女性。年齢は俺と同じで赤色の髪に小柄な体型、いつも赤い服を着ていたことから赤い服がよく似合っていた。そんな幼馴染だった。だった。
彼女は死んだ。それはもう1年も前の話だ。
エイジア 征伐局内
「ギーン! ギーン! 人の話を聞いてるの!」
「うるさいな。で、何だ?」
「聞いてないじゃん」
ランが俺に対して怒っている。俺はまあまあと言ってその場を収めようとするがランは全く引いてくれない。
「いい、ギンはねもう少し人の話を聞いておくべきだと……」
おっ、この任務良いな。報酬もいいし、あまり遠くまで行かないから今行くなら最高だな。今回の任務はこれにしようと。
「……それにしてもギンというのは、っていうか聞いている! ねぇギン。ギンてっば」
その後しばらくの間ランに説教されていたのは言うまでもない。
「まったく、ギンは私の話を無視するし私なんかどうでもいいの」
隣りを歩くランは未だ機嫌が悪いままであった。の割には何だかうきうきしているように思えるのは気のせいだろうか。
「そんなわけないだろ。ランのことは大切だぞ」
俺は正直な気持ちを言う。隣りを一緒に歩いていたランは突然止まった。
「ん? どうした」
「たたた、大切って私のことがそれって…こここ、告白……」
ランは止まったまま顔を真っ赤にして手をパタパタとさせている。しかも、何を言ったのかよく聞こえなかったし。
「何か言ったか?」
俺はランに尋ねてみる。その言葉を聞いたランは突然顔がむすっとなってしまい。
「……この鈍感。私はギンのことが好きなのに……」
ランは小言で何か言った。
「?」
俺は何を言ったのかわからないで首をかしげていた。それを見たランは残念そうに言った。
「いつものギンか~。残念だな」
そう言うと俺を置いてとっとと歩いて行ってしまった。いつものギンってどういうことだよ。というか、それより。
「ちょっと待ってよラン!」
この時はごまかしていたが俺の耳にはランの言葉が聞こえていた。だって俺だってランのことが……。
「じゃあねギン」
「ああ、またな」
俺達は近所で別れるとそれぞれが自分の家に向かって歩いて行った。
「ただいま」
ただいまと言っているが家には誰もいない。父さんは行方不明になっているし、母さんは俺を生んだ時に亡くなったそうだ。なので、母さんなんて俺は写真でしか見たことがない。美しい人だと思うがそれ以上のことは知らず赤の他人だというのが実情だ。
「腹減ったな」
1人呟く。一戸建ての家は俺1人が住むには大きすぎるがゆえに広い家に俺の呟くが響き渡る。誰か一緒に住むことができないかな。俺はそんなことを考えながら自分でご飯を作る。
あれだぞ。意外と俺は料理ができる。ランに一応教わったおかげであまりに難しい料理以外なら作れるぐらいまで腕は上達したのだ。
しゃしゃしゃ
野菜をフライパンの上で炒める。自分の魔法でコンロに火をつける。その方がガス代を節約できるからだ。この大きな部屋のローンも電気代も水道代もガス代も全て俺が払っている。なのでこれぐらい節約してもいいだろう。
「ギーン」
俺の名前を呼ぶ声がした。この声はランだ。俺は火元を確認すると玄関へ向かって歩き──だす前にランがリビングに入り込んできた。ここ一応というか俺の家だぞ。
「勝手に入ってくるなよ」
俺はあきれてものを言う。
「何よ。何か困ることがあるの」
ランはそう言う。別に困るというわけじゃないのだが一応俺の家なんだからしっかり玄関でインターフォンを押してから入ってもらうとうれしい。
そんなことを何度も言っているのにランは勝手に俺の家に上がり込む。最近はもう諦めている。
「で、何か用か?」
俺は用件を尋ねる。ランは「あっ」と言った後手に持っていた紙を俺に渡す。
「何だこれは?」
俺は聞く。
「とりあえず読んでみて」
そう言われて俺はその資料を読んでみる。
征伐
ケルベス
場所 サウメリ
賞金 245万
任務条件 2人1組
それは征伐任務の案内書であった。これを俺に見せるということはつまりは……。
「一緒に行こうよ。この任務」
やはりそう言うと思った。そもそも2人1組の時点で何かそんな予感がしていたのだから。第一2人1組の任務を受けるなよ。1人でやるものにしろよと正直言いたかった。だが、起きてしまったことは仕方ない。任務の取り消しは別途料金がかかるのでやる者など基本的にはいない。だから、この任務はもう行くしかない。ではどうするか。
「ランはユーとは行かないのか?」
ユーとはランと仲のいい同年代の女子のことだ。ただ、俺はあの女はあまり得意ではない。だって、彼女は……。
「それは無理無理。だって、彼女百合なのよ。すぐに私にキスしてこようとするし一緒に旅なんかしたら私の大切なもの奪われそうで……」
後半ランの声が小さくなる。ランの体は震えている。ユーに完全におびえているな。ユーは何を隠そうユリなのである。女子が大好き。特にランのことがお気に入りだそうだ。その関係なのか俺をやたら目の敵にしてくる。本当に困ったものだ。
「わかったよ、行きゃいいんだろ、行きゃ」
俺はやや照れ隠しに乱暴に言う。ユーに奪われるぐらいだったら俺が……。ごほん。何でもない何でもない。
「ギン顔赤いよ?」
ランが俺の目の前に顔を出す。
「わっ」
俺はびっくりして後ろへ退く。ランはそんな俺の姿を見て笑っていた。
そんな昔の愛しき日常の物語。
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