第69話 ギンの家

 「わあ、ここがエイジアですか」



 ピーチェが周りをきょろきょろ見まわしている。それは俺の隣を歩くレイ、そしてピーチェの隣を歩くアイリスも同様であった。



 「そんなに面白い街ではないぞ」



 俺はそう言う。エイジアは魔術師関係の公的施設が多く存在することとして有名である以外は魅力的に思えるものがないのが特徴というかそういう町であったのだ。だから俺は自分の町を決して謙遜して紹介をしたのではなく事実を伝えたまでだったのだ。



 「そうは言いますが結構大きい建物、高い建物があるじゃないですか」



 レイはそう言う。まあ、確かにレイの言うとおりである。このエイジアには結構立派な建物が存在している。しかしながらそれは自慢にできない。



 「レイ、そうは言ってもシュームには劣るだろう」



 「そ、それは……」



 レイが否定しないところを見るとやはりシュームの方がすごいというのが正直な感想なのだ。レイもさすがにフォローというものができなかったみたいだ。無理して言うよりも正直でよろしいというのが俺の思ったことだ。



 「そんなことより、ギン」



 アイリスがぴょこんと俺の前に顔を出してくる。わっと俺は一瞬驚いて後ろに下がってしまった。いきなり出てくるなよ、びっくりするだろ。



 「アイリスびっくりしたじゃないか」



 俺は心の中で思ったことすべて言うことはなかった。アイリスに説教ができなかったのは俺が甘いのがいけないのだが、そんなことどうでもいい。ともかく、アイリスの話を聞くこととした。



 「ギンの家に行こう!」



 アイリスは元気よく言った。



 「へっ!?」



 俺はアイリスの言葉に驚いた。何で俺の家に何か行きたいんだということだ。



 「いいね、ギンさんの家に私も行ってみたいと思っていました」



 「私も行きたいです」



 ピーチェ、レイもアイリスに続いて言う。だから、俺の家に行ったって何もないのに。俺は3人に必死に俺の家には何もないんだということを伝える。



 「いや、俺の家に行っても何もないぞ。どうしてそんなに行きたがるんだよ」



 俺がそう言うと、3人はお互いの顔を見てから口々に言う。



 「いや、行きたいなあって思いまして」



 「行きたいです。私は」



 「いいでしょ」



 ピーチェ、レイ、アイリスの順番で答える。どう言ってもこの3人は俺の家に行こうとしているそれには変わらなかった。俺は仕方なく諦めることとした。



 「わかった。でも、俺の家には面白いものなどないからな」



 「「「やったー」」」



 3人が喜ぶ。ピーチェはレイとハイタッチをしてアイリスはジャンプをして大喜びだ。だから、俺の家に行っても面白いことなどないのに何がいいのだろうか俺には疑問が浮かんだだけで訳が分からなかった。


 その後、俺達は俺の家に向かって歩いて進んだ。俺の家はエイジアの中心市街地から少し離れた閑散とした住宅街の一角にある一軒家だ。赤い屋根に卵色の壁、大きな煙突、バルコニーが目印の家であった。



 「わー」



 レイが俺の家を見て興奮している。



 「ギンさん。結構大きい家に住んでいるのですね」



 ピーチェが俺の家に感心している。まあ、俺が作ったわけでも買った訳でもなくオヤジから譲り受けたものであるのだが。



 「ギンすごーい」



 アイリスは奴隷だったこともありこんな大きな家は初めてと言っていた。3人がそれぞれ別々の感想を述べたところで早速俺が入るかと言った。



 「入るか?」



 「「「もちろん(です)」」」



 「お、おう」



 3人の剣幕にやや引き気味の俺はさっそく久しぶりに自分の家の鍵をカギ穴に差し込み懐かしの家へと帰ってきた。討伐とは家に帰ってくるまでだと昔の有名魔術師は言っていたがその通りだと思う。



 俺達は家の中へと入っていった。そこには……。



 特には面白いことはなく行った時のままになっていたため若干のほこりが目立ったくらいで家は荒らされておらずまずはホッとした。エイジアの中でもたまには強盗など起こるので注意しないといけないことだ。俺は、きちんと戸締りをしていたことが幸とでたに違いないと思った。



 「ギンさん。いい家ですね」



 ピーチェが褒めてくる。褒めても何も出ないぞ。



 「この家に住みたいです」



 レイがそんなことまで言ってくる。



 「そういえばさー」



 アイリスが俺に対して何か質問をしてきた。



 「私達どこに住めばいいの?」



 アイリスの質問に場は凍りついた。凍りついたというのは表現的には違うかもしれない。時間が止まったが正しいかもしれない。



 「そういえば確かに」



 ピーチェも頷く。



 「ギンさん」



 レイが俺に答えを求める。これどう見ても俺の家に住みたいとかいうだろう。俺はそう確信した。レイの目を見てだ。そして、その確信はあったていた。



 「ギンの家に住もう」



 アイリスはそう言う。ピーチェとレイも反対していない。俺は反抗しようと思ったが確かに3人の家がないことには変わらないので俺も1人暮らしは寂しかったし少しぐらいならいいかなと妥協をしてしまい3人を家に泊めることとした。



 「ギンさんありがとー」



 ピーチェが俺に抱き着いてくる。



 「あっ! ピーチェ、抜け駆けだ。ずるい」



 その後にレイ、アイリスも抱き着いてきた。そういうことでようやく家に着きました。

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