第67話 精神世界

 「ここは?」



 俺はツウサンを貫いたはずだ。しかし、貫いた後気づいてみると真っ白な空間に1人いた。真っ白な空間。見渡す限り一面全部が真っ白で何も存在しない。



 「ピーチェ! レイ! アイリス!」



 3人の名前を呼んでも返事がない。



 「呼んでも来ないよ。ここにいるのは俺とギンお前だけだからな」



 「!」



 後ろから声がしたので振り返った見る。そこにはツウサンがいた。俺によって貫かれたはずのツウサンだ。ツウサンのその表情には戦いを始める前のその強気の態度のものはもう見ることができなかった。



 「そう警戒するな。もう俺には戦う気などない」



 俺は一応警戒をして戦闘準備をしていたがそれをツウサンは両手を前に出していさめる。



 「どういうことだ。ここはどこなんだ?」



 俺はツウサンにたくさん聞きたいことがある。質問をしなければならない。



 「まあ、待て。質問がしたいなら全部聞いてやるから慌てるな」



 ツウサンは苦笑いしていた。その表情は先ほどまで戦っていた敵としての表情ではなく俺には何が何だか分からなくなってしまった。



 「まず、ここはどこかと言われればそうだな……俺の精神世界という言い方が一番合っているかな」



 精神世界。俺はそのまったく聞き覚えのない言葉に戸惑った。つまりは今俺はツウサンを貫いたことでツウサンの精神の中に入ったということなのか。どうして入ったのだ。全く覚えがない。



 「お前が思うのも当然だ。俺もわからないからな。まあすまなかったな。俺もあいつに囚われていたからいけなかったんだ。でも、お前に止められてよかったよ。俺もそろそろ現実を見なければならなかったというのにな、笑っちゃうだろ」



 ツウサンは自分を責めるように言っている。俺にはそれが笑えなかった。さっきまで敵だと思っていたがツウサンにはツウサンなりの想いというものがあったんだ。俺はそれを理解できていなかったんだ。



 「ツウサン。俺……」



 「そんな目で見るなよ。俺に憑りついていたのは科学という時代に執着した俺の意思なんだ。誰が悪いといえば俺なのさ」



 「しかし」



 俺は必死にツウサンに語りかける。俺は何だかこいつを助けなければならない木がした。俺がこの精神世界に行ったのもそんな気がする。



 「やめてくれっ!」



 ツウサンは俺に向かって怒鳴った。頬には涙が流れている。



 「俺が悪いんだ。ギンの仲間にも悪いことをしたと思う。あの3人にはお詫びとして力を授けておくよ。そして、ギンにはいいことを教えてあげるよ」



 「いいこと?」



 「ああ、漆黒のモンスターのことだよ」



 漆黒のモンスター。俺が今戦ったツウサンやかつて戦ったゾームに憑りついていた奴だ。確かエードの話によると人の負の感情によって発生し世界に108体いるのであったな。



 「たぶん、ギンは少しだけなら知っていると思うが漆黒のモンスターは108体いるという話だがそれは完全に全て存在した時の話だ。今は多くても66体しかいないという話もある」



 66体。108体からかなり数が減ってくれたのはうれしいことだが何でツウサンは俺にそのことを伝えるんだ。俺は疑問に思った。



 「何で俺にそんなことを言うんだ」



 ツウサンは一瞬笑みをこぼしてから言った。



 「それは後にわかる。ギン、君はこれから先に大変つらい目に合う。それは避けることのできないとても悲しいものだ。でも、それでもずっと今のままでいてくれ。そうすれば希望は見えてくるから。これはある人からの伝言だ」



 「ある人? ある人って誰だよっ!」



 俺はある人について聞こうとした。しかし、ツウサンはそれ以上は言わなかった。そろそろ時間だとツウサンは呟くと笑ってから一言。



 「君に会えてよかった」



 そう言い去ると俺の視界は急に光がさしまぶしくて目を開けていることができなかった。そのまま体が妙に浮いたような感じがすると精神世界という場所が壊れたというのを理解した。


 そして、次に目を覚ましたのは砂漠であった。テンテン砂漠。俺達が地下に落とされるきっかけとなった場所だ。ちゃんとレイのズボンが落ちている。あの場所に戻ってきたのだ。



 「ピーチェ、レイ、アイリス!」



 俺はあたりを見渡し3人の名前を呼ぶ。近くを見渡す限り3人の姿は見えなかった。3人はどこに行ったのか。まさかまだ地下に取り残されているのではないか。俺は急に心配になってきた。しかし、地下への行き方などあるはずがない。どうすればいいんだ。俺は考えていたところにどこからか声が聞こえた。



 「「「きゃああああああああ」」」



 何か悲鳴が聞こえた。どこかで聞いたことがある声だ。しかもその声はだんだん近づいている。声の発生源はどこかと周りをきょろきょろ見渡しても何も変わってはいなかった。しかし、それでも声は近づいてくる。



 「「「きゃああああああああああああ」」」



 どこからだ。……上か。


 上を見てみるとピーチェ、レイ、アイリスの3人が空から落ちてきていた。やばい。今すぐに風の魔法で落下を止めないとと思ったがそれは本当に気付くのが遅かったせいで間に合わずに3人は俺の上に落ちてきた。



 「ちょ、えっ、待ってよ」



 「「「きゃあああ」」」



 ドン



 3人が俺の上に落ちてきた。



 「ぐはっ」



 俺は完全に3人の下敷きとなっていてどうにかして立ち上がろうとしていた。だから、がんばって起き上がろうとして地面に手を置いたつもりが何かに触れた。



 ふにゅ



 何か柔らかい物に触れた。何だろう、この柔らかいのどこかで覚えが……あっ。俺はこれの正体に気が付いた。恐る恐る俺は自分の手の先を見てみると掴んでいた。その手の先にはレイの胸があった。地下通路に落ちた時と違いはっきり俺が揉んでいるのがわかってしまった。



 「ギ、ギンさん」



 「レ、レイ」



 俺はレイと視線が合う。すでにピーチェとアイリスは俺の上からどいていた。俺達はしばらく無言の時間が続いてそして。



 「ギンさんのエッチー」



 ベシン



 顔が真っ赤になっているレイに俺は思いっ切りビンタをされた。しかも、レイの体からは想像もできない力でだ。



 「ぐはっ」



 俺はそのまま吹き飛ばされた。想定外だ。しかし、レイすまなかった。そう考えたとき俺の意識は落ちた。





 「ギン」



 どこか懐かしい声だ。俺と共にかつて戦った同い年の幼馴染。○○は俺に優しく声をかけた。しかし、その笑顔はどんどんと遠くへと行ってしまった。



 「待て待ってよ○○!」



 そこで俺の意識は目覚めた。



 「ギンさん。すいませんでした」



 俺が目覚めると目の前にはレイがいた。その顔は少し赤く染まっていた。まだ、胸を触られたことを気にしているのか。それも仕方ないな。



 「すまなかった」



 俺は先ほどのことを謝った。レイは別に気にしていませんと言ってピーチェとアイリスのもとへ行こうとした。その時俺はふと気が付いた。



 「レイ、そのスカートは?」



 「へっ?」



 レイは慌てて自分の下の方を見る。レイはスカートを穿いていた。レイは砂漠でズボンが脱げて穿けなくなっていたはずだ。なのになんで穿いているんだ。



 「あれっ!? 何で」



 レイもどうして穿いているのかわからなかったようだ。



 「まあいいじゃん」



 アイリスが気にするなといった感じに言ってくる。しかし、なぜか俺に対して怒っているように見えた。何かしたか俺。



 「そうですよ。レイが最初から穿いていたでいいじゃないですか」



 ピーチェもレイによかったねという意味合いの言葉を言うがその視線は妙に俺に痛かった。何でピーチェも怒っていらっしゃるのですか。俺には到底理解できなかった。仕方なしに俺は話をそらしていった。



 「じゃあ、もう行くぞ」



 俺は砂漠をさっさと出たいという意味で言った。もうこんな場所から一刻も早く去りたいのが本音だ。



 「「「ギーン(さーん)」」」



 3人が怒鳴った。どうしてだ? 俺にはやはり女子の気持ちはわからなかった。そして、3人から逃げるように走り始めた。3人は俺を追いかける。



 「「「待ちなさーい」」」



 あと少しでエイジアに着く。



 ─砂漠の地下



 「ツウサン。お疲れあなたはよくやってくれたわ」



 ツウサンの死体の横にある1人の女性がやってきていた。ランだ。



 「あなたは自分が漆黒のモンスターに憑りつかれていることを理解したうえでギンと戦った。あなたは本当にボスの目的のために忠実だった。そんな仲間を失って私は悲しいわ」



 ランの言葉は嘘偽りではなく泣いていた。頬には涙が流れていた。



 「ツウサンが……そうか。奴は自分の役目を果たしてくれた」



 そこに1人の男がやってくる。ルイだ。この男もギンと戦ったことがある。彼らは全てはある目的のためだけに動いている。



 「行きましょう」



 「行くか」



 ランとルイはその場を跡にする。



 「次はお前の番だな」



 「ええ」



 ランの瞳には揺るぐことのない強い意志が燃えていたのであった。

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