第50話 さよならシューム

 翌日の朝。


 俺達は、いよいよシュームを出発しようとしていた。この町にはあまり滞在していなかった目なのかピーチェが出発する寸前までもう少しいましょうよと俺に説得をしてきた。もちろん、俺はこう答えた。



 「無理」



 無理だ。確実に無理なのだ。と言っておいた。それには何個かの理由があるが1番の理由といえばやはりは、ハム議員に少しでも早く報告をしなければいけないということだ今回の事件は直接の依頼だったからが大きい。これでも俺は一応公務員なのでやるべきことはする。ただ、やらなくてもいいことをやったり、かしこまったことはやらないけれども。



 「ええ!」



 3人の中でただ1人ピーチェからは不満の声が上がった。そんなの後でもいいじゃないですかと後に言葉が続く。一方レイ、アイリスは俺に同調をしてくれている。特にアイリスは聞いてくれる。第一にどうしてピーチェがもう少しこの町にいたのかという理由はもうわかっている。



 「そんなに買い物をしたいのか」



 前に見たファッション雑誌に書いてあったお店に行きたいらしい。他にもおいしいレストランなどまさしく青春を謳歌する女子には聖地ともいうべきものがこの町には備わっている。ピーチェもこの町に憧れを持つ女子の1人だ。本当ならよし、もう1日滞在するかと言いたいところだが今回は譲れない。まあ、レストランぐらいなら行ってもいいだろ──ダメだ。負けるな俺。俺も誘惑に負けかけてしまった。だが、どうにか打ち勝ちピーチェの説得を再開する。ちなみに、レイはどっちでもいいですと中立を主張しアイリスはこんな町はさっさと去りたいですと奴隷にされていたこの町のことをさっさと忘れるためにも早く出たいと言っている。



 「いや、でも少しくらい………」



 ピーチェはまだ抵抗を続ける。ただ、その言葉は前よりは強くはない。少しずつ折れてくれた。


 ………その後結局は話し合いの末にピーチェをなだめることに成功し俺達はようやくシュームに別れを告ぐことができることとなった。



 シュームの町は大きいため俺達が泊まっていた宿からエイジア方面のゲートまでは相当時間がかかった。その時間は1時間チョイ。大変長い。この町には乗り物でリニアという魔法を動力として高速鉄道があるが俺は金の無駄(これは俺が貧乏なので乗れないことの言い訳で言っている)だと思っており絶対に乗らないと誓っている。これに乗れば実はエイジアまで4時間で行けるのはピーチェ、レイ、アイリスにさえ黙っている。だって、もし言ってしまえば絶対に乗ると言われてしまうから言わないでおく。


 歩くことだって大切さ。これも俺の言い訳の1個である。別にいいだろ。



 俺達はゲートにたどり着いて今まで少しの滞在であった大都市シュームの町を背にして目的の地エイジアへと向かってゲートから足を踏み出した。

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