第49話 ピーチェ、レイ、アイリス

 すべては解決した。


 俺は、ハム議員の命を受けて闇商人たちを捕えることとなった。そして、ピーチェ、レイには迷惑がかからないように1人で闇市場に乗り込んだ。その過程で奴隷として売られかけていた少女アイリスを助けた。アイリスは俺と同い年の子だ。俺は、勝手に品物を盗んできたも同然の奴隷だったアイリスと共に闇商人たちから追われる身として逃げることとなり、闇商人たちのボスのもとへと辿り着いた。ボスは、何と元同僚のルイであった。しかし、ルイの奴は戦いの最中に不思議なことを言い残して去ってしまった。


 そして、俺とアイリスはここで闇商人を俺達のことをハム議員が伝えてくれていたおかげで突入してきたシュームの警察の方々と共に逮捕し、今回の事件はすべては終わったかのように思われた。そう、思われたのだ。俺は、このまま満足にシュームを出ようとしていったのだったのだがここであんなことになるとはまだ考えてもいなかったし、理解すらできていなかった。



 ─カフェ・ブルン



 カフェ・ベリーは闇商人たちのアジトと化していたことから俺達はシュームにある別のカフェにいた。そう、俺達は。


 俺達は、今席に座っている。俺とアイリスが横に座っており、机を挟んで向かい側にはピーチェ、そしてレイが座っている。



 「「「「………」」」」



 全員無言だ。俺達の机の周りは修羅場と化していた。周りのお客さんたちも全力で無視をしている。さっきなんかウエイトレスさんが速攻でメニューを置いて去って行ったぞ。「ごゆっくりー」と言っているわりには早口だった。



 「あ、あのピーチェ、レイ。少し話を聞いてくれるとうれしいのだけど───」



 「ギンさんなんか知りません」



 「女の子を1人にするなんて最低です」



 「なっ」



 俺の話の途中で聞くこともせずピーチェ、レイの両者から罵倒される。こ、これは地味に精神的ダメージが来る。



 「いや、お2人とも何を怒っていらっしゃるのですか?」



 あまりの恐ろしさに敬語となってしまう。2人の威圧に屈する俺であったが、2人はそんな俺の姿を見ても一向に態度を変えてくれない。



 「どうか、許してくれないか。すまなかったと思っているよ」



 俺は謝る。このカフェに来てから何度と謝罪に近い言葉や謝罪そのものなども含めて十数回は言っている。それを何回か繰り返したことによりようやくピーチェとレイも話を聞いてくれることとなった。



 「ギンさん」



 ピーチェがようやく口を開いてくれるようになり俺の名前を呼ぶ。レイもそれに続いて俺の顔を見る。何を言われるかは覚悟はしていた。おそらくは、2人を置いて勝手に1人で闇商人を捕まえたことに不満があるに違いない。俺達は、この旅の中で魔法の修行もしていた。ピーチェもアフーカにいた頃よりは魔法の熟練度が相当上達をしている。同じようにまったく魔法を使うことができなかったレイも魔法を使えるようになっている。だから、自分たちは一緒に戦いたかったと言うのだろう。



 「何で、私達を置いて行ったのですか? と本来は質問すべきですがそれについてはもうわかっています」



 「わかっている?」



 ピーチェは俺がてっきり質問してくると思っていたことをわかっていると言った。俺は、わかっていると言ったことを質問する。俺の問いかけに答えたのはピーチェではなくピーチェの隣で黙って話を聞いていたレイであった。



 「わかっていますよ。ギンさんは私達の身のことも思って1人で戦ったのでしょ」



 「………」



 図星であった。俺の考えはすべてこの2人にばれていた。俺は膝の上に置いていた両手をゆっくりと上げておとなしく降参のポーズをする。


 2人はその様子を見てくすくすと笑っていた。



 「まったく、ギンさんは優しいですね」



 「本当、優しすぎて困ります」



 ピーチェとレイは優しい笑みを漏らしながら話してくる。その姿を見て俺の心はすがすがしかった。



 「「だけど」」



 すがすがしかった。ほんとにすがすがしかったんだ。ただ、だけどとピーチェとレイが話を続け始めた。その顔はもう笑ってはおらず邪悪な笑みという表現の方がいいような表情をしていた。だけどの後に続く言葉は全く俺には予想をすることができなかった。



 「だけど何だ?」



 俺は2人に問いかける。ピーチェ、レイの2人は見事に息が合ってため息をつく。


 何だよ、そのため息はよ。



 「まったく、ギンさんはギンさんですね」



 「本当ですね」



 何だ、どういうことだ。ピーチェとレイに呆れられている。いったい俺が何をしたというのだ。そして、俺らしいってどういうことなんだ。誰か答えてくれよ。



 「どういうことなんだ? 俺にもわかるように説明してくれ」



 俺は尋ねるが2人は答えてくれない。2人はそのまま話を続けた。そう、ついに俺が全く理解をしていなかった本題へと入ったのだ。



 「で、ギンさん。隣りにいる女の子は誰なんですか?」



 「もしかして、彼女とか言いませんよね?」



 ピーチェとレイが続けて俺の隣に座っている女の子、アイリスのことを質問する。レイに至ってはアイリスを恋人だと勘違いしているようだ。何でそうなるかな。


 俺の隣でずっと黙って座っていたアイリスもついには口を開いた。



 「ななな、べ、べべっ別に恋人なんかじゃないし、ただ、ギンには助けてもらっただけなんだから」



 アイリスはめちゃくちゃ動揺していた。気のせいかその顔はほんのり赤い。やっぱり、好きでもない男を恋人だと言われると動揺したり嫌になったりするよな。ただ、ピーチェとレイの2人は俺が思っていた場所とは違う部分に突っかかっていた。



 「「ギン!?」」



 アイリスが俺の名前を呼び捨てにしていたことに突っかかってきたのだ。



 「やっぱり、恋人なんじゃないの、あの2人」



 「私達ですら呼び捨てにしていないのに」



 ピーチェの話は聞こえたが途中のレイの話は2人でごにょごにょ話していたので何を言っていたのか聞こえずにわからなかった。俺は、まずは恋人疑惑を払しょくしようと試みた。



 「何でそんな話になるんだ。アイリスは、奴隷として売られかけていたから俺が助けたんだ。奴隷として売られたときに家族は殺されてしまったから一緒に旅することとなった。2人ともアイリスをよろしくな」



 「「「はぁぁ~」」」



 俺が事情を説明した後にピーチェ、レイだけにはとどまらずアイリスまでため息をした。



 「おいおい、どうした」



 俺は、なぜため息をつけられたかわからなかった。わかることは絶対になかったのだ。



 「「アイリス」」



 ピーチェとレイがいきなりアイリスに話を振ってきた。おいおい何をするつもりなんだ。ここでいじめなんかしないよな。ただそれは俺の杞憂であり実際はいい方向に話は進んだ。



 「はいっ!」



 アイリスが2人を前に緊張したように返事をする。2人が何を言ってくるのか内心はドキドキ状態だろう。



 「これからよろしくね。私の名前はピーチェよ」



 「私はレイ。これからよろしくお願いね」



 2人からの挨拶があった。これでアイリスもリラックスをすることができてうれしそうに答える。



 「私の名前はアイリスです。よろしくお願いします。どうぞ、呼び捨てで大丈夫です」



 元気に答える。元奴隷だとしてもやっぱり元気な子もいるのだなぁと俺は思った。



 「なら私達も呼び捨てでいいよ。レイもそれでいいよね」



 「もちろん、大歓迎よ」



 ピーチェとレイとの間にあった蟠りはこうして無くなった? といえるのだろうか。まあそれはともあれこうして俺達のたびに新しく1人仲間が加わった。



 俺達は、カフェを出た後この町についてから止まっている宿に戻りハム議員と連絡をした後報告を直接してほしいと言われたので急ぎエイジアに戻るためにも明日の朝に出発をすることとした。

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