第47話 ギンVSルイ③



 俺とルイは互いににらみ合い続けていた。お互いの中には共通の認識が生まれていた。



 (先に動いた方が負ける)



 この共通認識が俺達を制止させ続けていた。いつまでもこの沈黙が続くと思っていた。少なからず安全な場所からこの戦いの行方を見守っているアイリスには理解はできないだろう。アイリスには2人とも止まっているだけであると感じているに違いない。ただ、これは止まることも戦いに一部なのである。相手より優位に立つためにはとても必要なことだ。



 「おいおい、いつになったら攻撃してくるんだ?」



 挑発をする。ルイから何としても先に攻撃してもらう。しかし、そこは冷静であった。先ほどまで怒っていたはずであるがここは冷静である。



 「ふん。攻撃するかばかもの」



 これは難儀になってしまった。あいつは目の前が見えないと踏んでいたのだがこれでは一向に何もできない。俺から動くしかないのか。しかし、そうすると負けてしまう。これはもはや根気比べだ。どちらかが我慢できなくなるまで勝負は動かない。



 「………」



 「………」



 お互い無言であり、にらみ合い続けていた。しかし、ルイの奴はまだ動く気配はない。俺も動く気はさらさらない。



 「………」



 「………」



 あれからどれくらい経ったのだろうか。俺達はいまだ動くことができていない。いい加減に諦めてもらいたいものだ。俺の我慢はそろそろ限界だ。いつ、体が勝手に動いてしまうかわからない。



 「………」



 「………もう、さっさと動けよっ!」



 はぁー! 



 先に我慢が出来なくなったのはルイであった。さすがに俺がいい加減に動かないことに我慢できなくなった。



 「皇極の光」



 「うっ、まぶしい!」



 ルイは魔法を発動した。皇極の光という魔法だ。どういう魔法かといわれると初めて聞いた魔法なので俺も知らない。


 魔法の発動と同時に俺の視界は突然の強い光でまぶしすぎて目を開けることができず失われた。ただ、まぶしい光で俺の行動を止めるのがこの魔法の能力だと考えた。


 だから、ルイに向かって叫んだ。



 「時間稼ぎが効くと思うなよっ」



 「誰が時間稼ぎなどと言った」



 そんな言葉が返ってきた。その言葉が俺の耳に届いた次の瞬間には俺は激しい痛みが全身に響き渡った。



 「うぁあああぁ」



 痛い。痛い。なんだこれは? いったい俺は何の攻撃を受けたんだ。恐る恐る目を開ける。すると、俺の視界の先には天井が広がっていた。どうやらさっきの攻撃で俺は吹っ飛んだようだ。しかし、吹っ飛んだ感覚はなかった。あったのは全身に激しい痛みが行き渡っただけだ。



 「な、何をしたんだ!」



 俺は激昂する。ルイに向かって叫んだ。



 「皇極の光という魔法を使っただけですよ」



 ルイはただ、皇極の魔法を使った。それだけしか言わない。話している時のルイの顔は笑っていてとても満足そうだ。その姿を俺は見ているだけで腹が立った。



 「皇極の魔法なんて知らないぞ! どういう魔法なんだ! 答えろ、ルイ!」



 俺は叫び続ける。このとき俺は、どうにか床に倒れている状態から起き上がる。


 ルイは滑稽、滑稽とでも言っているような表情だった。俺のあわてているみじめな様子が大満足そうだ。だから、調子に乗って俺の質問に答えてくれた。



 「皇極の魔法というのは技ランク4の光属性の魔法だ。技ランクは4だから公式の魔法だぞ。ギンは光属性の魔法の知識がないのは本当みたいだな」



 「………」



 俺は無言であった。



 「無言ということは図星か。まぁいい。で、こいつの能力は………もう一度味わって体で覚えろっ! 皇極の光」



 何。ルイの奴はもう一度魔法を放ってきた。しかも、説明の途中だ。このままバカみたいに説明を続けてくれるとうれしかったのに残念だ。ただ、今俺がしなければいけないことは1つしかない。



 「風の障壁」



 バガーン



 どうにか皇極の光からの攻撃を防いだ。



 風の障壁


 風属性 技ランク2


 能力 風を自分の周りに発生させ防御壁と化す



 これが今俺の使った魔法だ。風の障壁は防御用の魔法として戦闘において俺がよく愛用しているものである。こいつは技ランクが2と低い割には防御能力が結構高くて扱いやすい。



 「どうした、こんなものなのか?」



 俺はルイに向かって言う。ルイはまるで自分が理解できないもの、信じられないものを見ているかのような目をしていた。ただ、呆然と立っていた。俺はその顔、その様子を見て満足だった。これなら早く決着をつけることができそうだ。俺は、ルイの方にできる限り近づいていく。



 「さぁ、とどめと行くぞ」



 俺はルイに言い放つ。ただその時驚いていたはずのルイの顔が一緒微笑んだ気がしたのは勘違いだと俺は無理やり理解しようとしていた。

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