第44話 ギンとアイリス
権威の城地下5階
「きゃあー」
「大丈夫かアイリス?」
俺とアイリスは依然真っ暗な空間を歩いていた。空間といっても長い長い廊下である。だから上もあれば下も横もある相当広いと言われたら狭いと答えるような廊下だ。そこを歩いていた時、アイリスは暗かったので足を躓かせてしまったみたいだ。明かりが薄かったのが原因だ。明かりは今俺が使った魔法火の粉によって淡い光を作り出しているだけなのだからあまり効果はない。
「だ、大丈夫です」
「それはよかった」
それきり、お互いの会話はなくなった。いつ敵が出るかわからない緊張した状況であることも関係しているがそれ以上に男女であることが緊張させていたのであった。微妙な空気がずっと漂っていた。
「あ、あのギンさん」
歩き続けてしばらくしたところで沈黙の空気を破ったのはアイリスであった。アイリスは俺の服を引っ張っている。
「何だ?」
俺はアイリスが何を言うのか耳を傾けた。
「あの、これから呼び捨てでいいですか?」
「!」
俺は突然の提案に驚いた。呼び捨てか。確かに最近されていないな。俺は呼び捨てをされるという行為を懐かしく感じてしまう。
「だ、ダメでしたか?」
俺がしばらく黙っていたことが逆にアイリスを不安にさせてしまったみたいだ。俺は、考え事を中断してアイリスにあわてて答える。
「いや、そんなことはない。別に俺は全然かまわないぞ」
俺はそう言う。ただ、あわてすぎたのか声が裏返ってしまった。後ろからはくすくすと笑い声が聞こえる。アイリスに笑われた。笑われてしまった。
「ありがとうございます」
アイリスはそう言ってまた静かになった。そして、また長い沈黙が始まった。ただ、この沈黙は適度な緊張感を出してくれる。俺は良いようにも無理やり解釈して気持ちを落ち着かせた。
しばらく歩き続けているとまっすぐ先からは光が漏れていた。つまりはあそこがこの廊下の出口である。俺は、アイリスに注意を促せた。そして、火の粉を消す。
「アイリス。敵がいるかもしれない。気をつけろ」
「はい! ギン」
アイリスの呼び捨てには慣れておかなけばいけないと思った。なぜなら呼び捨てをされて少しドキッとしてしまった。これは、女子に呼び捨てされるのが慣れていないからだ。俺の周りの女子はピーチェにしてもレイにしてもギンさんとさん付けをしてくれるからだ。いや、今はそんなことを考えているよりも集中しなければいけない。
俺は、集中しなおした。アイリスにも俺の空気を読んでくれた。俺たちは、一歩また一歩と出口に向かって足を進めた。
「行くぞ」
「大丈夫です」
そう言うと俺とアイリスは長い廊下を出た。そして、俺達がそこで待ち受けていたものとは………。
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