第43話 ガールズトーク

 暗い暗い。エレベーターの先は闇だけが広がっていた。俺とアイリスはお互い離れないように手をつないでいた。しっかりこの手を離さない。俺は強くアイリスの手を握りしめていた。アイリスの顔はずっと真っ赤に染まっていた。男と手をつなぐのが初めてだから恥ずかしいのだと俺は思っていた。



 「この手を離すなよ」



 念のため声をかけておく。この暗闇の中でいつ離れてしまうか何があるかわからないからだ。



 「はい!」



 俺の少し後ろから元気なアイリスの声だけがこの暗闇の空間に響いた。



 カフェ・ベリー(レイ視点)



 話は変わってカフェベリーへと移る。


 カフェ・ベリーでギンさんがトイレに行ってからだいぶ経つがギンさんは一向にトイレから帰ってくる気配がなかった。レイは心配になっていた。


 私は、ギンさんと一緒にいられると思ったのに………。一緒にいるためにピーチェをわざと探さないように仕向けたのもある。しかし、そのピーチェはというと、



 「レイ。あなた私に何か言うことないの?」



 「………」



 レイの前にテーブルを隔てて座っていた。その顔はとても普段の優しい笑顔のピーチェとは似ても似つかないほど怒っているものであった。ピーチェはテーブルの上に置かれていたオレンジジュースを一口飲む。そして、コップをテーブルに置きまた口を開く。



 「何か言いなさいよ」



 ピーチェは怒鳴った。周りの人たちはその声を聴くとビクッとして静かになった。しかし、ピーチェには周りなど見えていない。今、ピーチェに見えているのは私を非難することだけだ。



 「………」



 しかし、私には何も言えない。ここで何を話しても余計に話をこじらせてしまうと思ったからだ。じゃあ、話さない。ずっと無言でいる。そうしたところで私はずっと追いつめられたままであろう。結局のところ私はピーチェにすべてを話さないといけないということだった。



 「じ、実は今。ギンさんはトイレに行っているんですけど、まったく帰ってこないのです」



 闇商人の件は最初にピーチェがいる場で少し話したこともあり説明を割愛したが私が今なぜ1人でいるのかということを説明することとした。



 「それならもうトイレにいないね」



 ピーチェは一瞬でそのようなことを言った。



 「なぜ、なぜわかるのですか?」



 「はぁぁ~。レイねぇ、ここまで待っても来ないということはギンさんはもうきっとトイレにはいないでレイを巻き込まないで1人でこの件を片付けるつもりよ。そんなのもわからないの」



 ピーチェに言われて私は確かにと思った。私は、思い上がっていたのかもしれない。ギンさんと一緒に仕事ができると思っていたのに、ギンさんはきっと私に被害がないように1人で仕事をするつもりだったの。



 「すいません、ピーチェ」



 私はおとなしく謝った。ピーチェは「別にもういいよ」と言ってくれたのは幸いだった。私の気持ちは楽になった。



 「ところで、レイ。1ついい?」



 「なんですか?」



 ピーチェの質問に答えるために聞き返す。その間に私はテーブルに置かれたアップルジュースの入ったコップを手に持ち一口飲む。



 「ギンさんのどこが好きなの?」



 「ぶぅぅぅぅ」



 思いがけない質問でジュースを盛大に吹いてしまった。



 「な、ななな」



 自分でも今の私の顔は真っ赤になっていることがわかる。ピーチェはこの反応を見て確実に私がギンさんのことが好きだということを理解しただろう。いや、知っていたからこんな質問をしたのだろう。だからと言って私にだって策はある。



 「じゃあ、ピーチェこそギンさんのどこが好きなんですか?」



 私はそう切り返した。案の定、ピーチェの顔も真っ赤だ。



 「わ、わわ私はギンさんの優しいところがそ、その………」



 最後はごにょごにょして聞こえなかったけどやっぱり優しいところが好きだというみたいであった。



 「そうですか、私も好きですよ。ギンさんは優しいですから。なにせ私を助けるために盗賊団を倒してくれましたから」



 私は、ギンさんが好きだということを認めた。しかし、それと同時にピーチェを挑発する。すると、ピーチェの顔に怒りマークが見えた気がした。



 「へぇ~。それはよかったね。ち・な・み・に私もギンさんに助けてもらっているんだよ。初対面はレイみたいにちゃらい若者に乱暴されかかっているところにギンさんが来て助けてくれたの」



 私はその言葉を聞いて驚いた。私は、自分だけ助けられていたのだと思った。ピーチェとは宿で魔法を教えていたのが縁で旅をしていると聞いていたのでそんなことがあったなんて聞いていない。



 「わ、私だって………」



 しかしそれ以上言うことができなかった。私にはまだギンさんとの思い出があんまりない。これが出会った順番の差というものなの。神様はひどすぎる。



 「レイ」



 突然落ち込んでいた私の名をピーチェは呼ぶ。私は顔を上げてピーチェを見る。ピーチェは手を私に差し伸べていた。それは握手をしようとしているようだった。



 「レイ。私たちはお互いギンさんのことが好きだから恋のライバルだけどそれと同時に友達にもなりたいな。いいかな?」



 ピーチェは笑顔だった。それは本心に違いない。私も手を前に出す。そして、握手をする。



 「私からもよろしくお願いします」



 こうして私は本当の意味でピーチェとお互いの内を出し友達になった。ただ、お互い恋のライバルであることも違いはないから負けるつもりはない。それは私たち2人の思いでもあった。



 「さて、行きますか」



 テーブルから立ち上がりピーチェは言う。行くといわれてどこに行くかはわかっていた。



 「ギンさんの場所へ行きましょう」



 私たちはカフェを出た。行くあてもないが私たちなら探し出せる気がする。カフェを出たとき不思議と店の下が床が騒がしい気がした。



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