第42話 権威の城

 俺たちは駆けて行った。そして、すぐに権威の城にたどり着くことができた。もちろん、たどり着くまでの間には人には極力見つからないようにした結果正体はまったく気づかれなかった。それは幸運である。



 権威の城。


 黄金の壁、塀、門を持つ建物。名前の通りにお城だ。黄金が使われていることからここの市場のもうけの象徴でもあるようだ。そんな象徴の城に住むのは基本的に王様か悪の組織のボスとここは相場で決まっている。



 俺はそう信じて門をくぐりぬけて中に入っていく。もちろん、門番という存在がいたが怪しまれずにスルーされた。ここまではうまくいっている。しかし、ここからはどうしたものか。まずは、ここのボスを見つけなければならない。次のもし見つけたとしても戦闘になるかもしれない、いやきっとなるに違いない。その時はどうやって切り抜けるかまで考えておかなければいけない。



 「あの、ギン、さん」



 「なんだ?」



 後ろからアイリスが俺の背中の服をつかんで尋ねてくる。いったい、どうしたんだ。俺は後ろを振り返る。すると、突然アイリスの顔は目の前にあって俺の唇とアイリスの唇が合わさっていた。要するに、キスをしていた。


 しばらくすると、アイリスの唇は離れた。



 「な、何するんだ」



 俺は動揺していた。キスをしたことにだ。しかも、ここは権威の城の敷地の中で周りは敵だらけである。幸い俺たちの近くには人がいなかったので誰にも見られていなかったことは本当に良かった。いや、そんなことはどうでもよくてキスをしたことに動揺していた。



 「キスですよ」



 当たり前のことをアイリスは回答する。その顔はとても美しくほほえんでいた。俺は一瞬言葉を失ってしまった。それほどのものであった。



 「お、おれの初めてを………」



 俺はそう言いかけると、



 「大丈夫です。私も初めてですから、それにこれは私からの感謝の気持ちなんですよ。ギンさんに助けられてからまだ何もしていないのが私として嫌だったのでここでギンさんが悩んでいたみたいなので励ましです」



 「………」



 悩んでいた。そう言われるとそうである。確かにさっきからボスについてしか考えていなかった。その時の俺の表情を見ていたアイリスはさぞ心配しただろう。これを聞いて俺は何か吹っ切れた気がした。何を迷っていたんだ。ここまできたなら戦うしかないだろう。



 「アイリス。ありがとう」



 俺は感謝の気持ちを述べるとアイリスの顔は一瞬にしてポッと真っ赤に染まった。そんなに恥ずかしかったのか照れたのかと俺には思えたのだ。



 「いえいえ、だ、別に感謝されるようなことをしてませんから………」



 照れ隠しなのか後半は全く聞こえなかった。だけど何を言っているのかは大体分かった。



 俺たちは、城の内層部に入っていった。もちろん、中には人がたくさんいる。だが、幸いというかまだ俺たちの正体はばれていないようだ。俺らは受付部を通り過ぎてエレベーターの前にきていた。なぜ、エレベーターかというとこういう場所ならボスは最上階にいるのが当然だと俺は思ったので上るためにもやってきたのだ。



 「えぇーと」



 エレベーターに乗った俺達は最上階5階と書かれたボタンを押そうとした。しかし、ボタンを押す前にボタンが赤く光った後突然とドアは閉まってしまいエレベーターは急に動き出した。その行き先は最上階地下五階───とはまったく反対の位置に存在する地下最深部5階であった。



 「地下5階?」



 「ギンさん、どうします?」



 俺達は戸惑っていた。しかし、このとき最悪のことが起こると俺には少しだが予感させるものがあった。これはボスからの俺達への招待ではないか。となると、俺達の動きはすべて監視されていたことになる。いったい、どんな奴がボスなのかますます恐ろしくなってきた。



 ピーンボーン



 甲高い音と同時にドアが開いた。もちろん地下5階で止まっている。エレベーターの扉の先には暗い暗い闇が広がっていた。


 俺と、アイリスはお互いの顔を一瞬見てから一歩足を踏み出し、エレベーターの扉の先に広がった闇の中を進んでいった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る