第26話 パーティ①

 町一番の酒場にて



 1人の男がグラスを持って立っている。そして、深く空気を吸い言葉を放つ。



「それでは、盗賊団から解放されたことを祝って、かんぱーい!」



 「「「かんぱーい!」」」



 町一番と言われているらしい酒場にて祝賀パーティーが開かれた。参加者はエードとミーサの2人を除いたこの町の全関係者である。



 「いや、このたびは本当にありがとうございました。これでこの町も再興することができます。町長として改めて感謝を述べたいと思います」



 「いえ、こちらとしてもただ我慢できなかったのでこの事件に割り込んだだけです。そこまで、恐縮しないでください」



 町長が深々とお辞儀しているので俺は慌てて止めた。なんか、そこまでえらいことをしたつもりはないのにな。でも、これでこの町が元通りになってくれるなら俺としてもうれしい。



 「ギンさん。礼儀正しいですね」



 ピーチェが横から話してくる。礼儀正しいか。



 「俺だって、国家公務員だぞ。ある程度立場をわきまえているいじょう、礼儀というのはしっかりしておかないといけないんだ」



 だてに、国家公務員はやっていない。ただ、立場をわきまえると今さっき自分で言ったものの1つだけやってはいけないことをしている。



 「それで、町長。1つお願いがあります」



 「何だね」



 町長の目は何でも聞いてあげるよと言っているようだった。俺は、遠慮せずに頼みごとをする。



 「ここでのことは、いや、この事件については俺が関わったことは黙ってくれませんか? 特に国や地方の役人には黙ってください」



 「あれ、ギンさんはもっと自分をアピールすると思っていましたよ」



 ピーチェ。俺を何だと思っているんだよ。まあ、自分の名前をPRするのもいいと思うがそれより大切なことがある。まずは名声よりも大切なものが優先だ。



 「ピーチェの言うことも理解できなくないし、いい案かもしれないが俺はこれでも国家公務員なんだ。今回の件は俺の本来の仕事の範囲ではないんだ。だから、あまりばれない方が賢明なんだ。だから、町長このことは………」



 「わかりました。私どもとしてもあなたはこの町の英雄です。英雄を売るようなことは決してしません」



 「ありがとうございます」



 俺が、礼をしたところで町長は笑顔で答えてくれ飲み物をグラスに注いでくれた。そして、乾杯する。町長はピーチェにも飲み物をグラスに注ぐ。ピーチェは遠慮したが横から遠慮するなと言ってあげて戸惑いながらも注いでもらった。


 町長はほかの人と話があるのでと言って俺達から離れて行った。



 「ギンさん。ギンさん」



 町長が離れて行ったあとピーチェが話しかけてくるが、近い、近い、顔が近すぎる。ピーチェの顔も赤い。


 ノワッ。少しびっくりして間合いを作る。間合いと言っても戦っているわけではない。ただ、近いので距離を取っただけだ。



 「ど、どうしたんだ」



 ピーチェの顔が近かったこともあり少し動揺していた。まだ、ピーチェの顔は赤い。むしろさっきよりも真っ赤になっている。



 「実は、ギンさんに話しておきたいことがあります」



 「何だ」



 動揺を隠しながらも、応答する。ピーチェの顔は真っ赤でその必死に何か言おうとする動作がその、えっと、ものすごくかわいい。



 「ぎ、実はギンさんのことがす、す」



 「す?」



 ピーチェはすの後の言葉をなかなか言わない。俺が黙って待っていると意を決したみたいでついに。



 「ギンさんのことがす──」



 「ギンさーん」



 ピーチェの話の途中で後ろから俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。呼んだのはレイだった。そのおかげか、ピーチェの言葉はまったくもって聞いていなかった。



 「レイ。今までどこにいたんだ。探していたんだぞ」



 ずっとこのパーティが始まった時からレイの姿が見えなくて探していた。



 「すいません。メイの様子を見ていたもので」



 メイ。体調はもう大丈夫なのかな。俺は、メイという言葉を聞いて自然と考えてしまった。レイは俺の考えていることが分かったらしく、



 「メイならもう元気ですよ。今は、パーティ会場の端っこでおとなしくしています」



 そうか、よかった。俺は、そのことが聞けただけで安心した。それよりもさっきの続きを聞かないと。



 「で、ピーチェは何が言いたかったんだ? 聞き損ったからもう1度言ってくれないか」



 レイの方からピーチェの方に振り返る。ただ、振り返った時に感じたのは恐怖心だった。ピーチェが怖い。完全に不機嫌な状態になっていた。たしかに、人の話を聞かなかったことは悪いと思うがここまで怒らなくてもいいんじゃないのか。



 「ピーチェ?」



 恐る恐る尋ねる。帰ってきた答えと言えば、



 「いえ、別に何でもありません」



 まだ、不機嫌な状態だが先ほどよりは怒りが和らいでくれていた。それに関してはとてもよかったと思う。そのあとは、俺はピーチェの不機嫌が治るのを待っていようとしたが、レイがどうしてもいろんな料理を食べて回りたいと言って人を連れて行こうとするので一緒に食べて回ることになった。


 ピーチェに説明して離れるとき、また不機嫌になったのは気のせいだと思いたい。

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