第2章 エード編

第11話 レイの宿



 レイの家は宿だど知り泊まった俺らだが、その宿は………。


 何なんだ。このデカさは。これは、宿ではない。豪邸だ。隣にいるピーチェも無言のまま突っ立ている。俺も突っ立ている。それにしても、すごすぎる。この町ってさびていなかったか。なのに何でこんな宿があるんだ。



 「ギンさん、ピーチェさんどうぞこちらへ」



 レイが丁寧に案内をしてくれる。案内が丁寧なのはうれしいんだけど。本当にうれしいのだけど………。なんか、素直に喜べない。



 「あれ? 2人ともどうかしましたか?」



 レイが不思議がっている。俺達の状況が分かっていないのだろう。というか、この家を普通に感じるなんてどんな感覚を持っているんだよ。俺なんか親父の行方不明以降貧乏に等しいのに、ピーチェだってそこまで金を持っていないだろうし。そんなこんな考えていると、俺達は部屋に着いた。俺の部屋は206号室だった。部屋の中は豪華──とはいえるほどではないがいたって普通だった。テーブルが部屋の中央に置かれ、畳の床、冷蔵庫などに加え2つ部屋がありもう1つの部屋にはダブルベッドがあった。ダブルベッド!? ここって、1人部屋じゃないのか!



 「あのー、そのー、えっとギンさん」



 うわっ。後ろからピーチェの声が聞こえてびっくりしてしまった。振り向くとピーチェが申し訳なさそうに声をかけてきた。



 「あのー実はギンさん。この宿は見た目通り高級で宿代は相当高くて1つしか部屋が借りられなかったのです。その、すいません」



 ………はい? 今なんと。



 「ちょ、ちょっと待ってくれピーチェ。それはつまり、この部屋で一緒に寝るということなのか?」



 「は、はい。そうです」



 ピーチェの顔が真っ赤だ。風邪をひいているんじゃないかというぐらい真っ赤だ。だが、これは昔から鈍感とか言われている俺にもこれぐらいは分かる。おそらく男と一緒の部屋に寝るのが恥ずかしいのだろう。俺も相当恥ずかしい。ここは、俺が遠慮しておかないと。



 「俺は、机がある部屋で寝るからピーチェはベッドで寝てくれよ。気まずいだろ? 俺は、男だからどこでも寝られるから大丈夫だ」



 「で、でもギンさんに悪いです。ギンさんがレイさんを助けたおかげでこの宿に止めてもらえることになったのですからギンさんがベッドを使ってください」



 いやいやと俺が断ってもピーチェの意志は変わらなかった。俺は、ピーチェがここまで頑固だったなんてと思い知らされることになった。それでも、俺達はお互い譲り合いを続けた。夕食の時もおいしいご飯を食べながら話していたことはずっとベッドをどっちが使うかだった。ここまで言い争いが続いたので流石に俺が口説かれることにした。そして、そのことを寝る前に言うことにした。でもまずは………………お風呂だな。うん。



 そしてお風呂。


 ………。何だこの状況は。俺が予想していたものとは違う。お風呂場ってあれだよな。こういう宿ってやっぱりお風呂も大きいはずだよな。ピーチェの宿ですらデカかったぞ。というわけじゃなくて、俺が言いたいことはそういうことだはない。俺が言いたいことというのは。



 混浴、だと。



 いやいやおかしいだろ。これは絶対。混浴ってあれだぜあれ。男と女が同じ浴槽に裸で浸かるんだぜ。こんな豪華な宿ではありえない話だろ。というか、普通の宿でもありえねぇよ。しかも、浴槽があまり大きくなく3人入れるか入れないかぐらいに広さだ。


 そして、現在俺はピーチェと混浴している。いや、あれだぞ。流石にお互い見ることできないだろ。だから、背中合わせで浸かっている。



 「………」



 「………」



 無言だ。お互い恥ずかしくて無言の時が続いていた。これは、何か話した方が良いに違いないと思っているのだがなかなか話せない。



 「あの……ギンさん」



 「な、何だ?」



 その沈黙を破ったのはピーチェだった。



 「混浴だと知らないですいませんでした。ギンさんに悪いので私先に出ます」



 「いやいや、ピーチェ。それは、悪いよ流石に。この後野宿になるかもしれないから今日ぐらいゆっくりしていけよ。出るなら先に俺が出るから大丈夫だ」



 そう言って、俺は立ち上がり浴槽から出ようとした。



 「待って!」



 それをピーチェによって妨害された。正確に言うと俺の足をピーチェは掴んだ。俺は、そのまま転んでしまった。



 「わあっ」



 「ちょっとギンさん」



 最後にピーチェの声がして気が付くと俺の目の前には柔らかい感触があった。何だこの柔らかいものは?



 「ちょ、ギンさん。離れてくださいっ!」



 へっ? 俺は、言われたとおりに離れてみた。そして気が付いた。俺が今まで触っていた者の正体を。ピーチェの胸だった。それを俺は触っていたんだ。今、俺はピーチェの上に乗っかっていた。



 「す、すまない」



 俺は、慌てて離れた。ピーチェの顔は茹っているんじゃないかというぐらい真っ赤だった。無論俺の顔も真っ赤だった。



 「その、エッチですよ」



 「すまない」



 俺は何も言い返せなかった。そして、またお風呂場は無言に包まれた。



 「ギンさん。私先に出ます」



 少し時が経ちピーチェはそういうと浴槽から出ていった。ピーチェには悪いことをしたな。俺はしばらく反省していた。ほんのしばらくだ。ほんのし、ば──。意識がそこで途切れた。



 「はっ!」



 ここはどこだ。確か俺はお風呂に入っていたら意識が途中で途切れて………そうか、俺はのぼせたのか。しかし、ここはどこなんだ。俺が泊まっている部屋ではないしどこかほかの人の部屋なのか。



 「あっ、き、気付きました?」



 俺の目の前に1人の顔がひょこんと出てきた。レイだった。



 「レイさんですか」



 「へ、はい。あ、あのレイと呼んでください。わ、私達同じ年ですので丁寧語じゃなくて大丈夫です」



 「そうなの………そうか、ならそうさせてもらう。で、ここは?」



 俺は、尋ねた。さっきから気になっていたがここはどこなんだ。この部屋には全く見覚えがない。部屋の壁はピンクで、ファンシーなぬいぐるみがたくさん置かれている。机もかわいらしい小さな丸型の物だ。どこかの女の子の部屋だ。



 「な、なんか、おかいいですか? こ、ここは、私の部屋です。わ、私が入浴をしようとお風呂に入ったら予定通………偶然ギンさんがいたのですけど、ギンさんどうやらのぼせていたみたいなので勝手に連れてきちゃいました」



 そうだったのか。レイには悪いことをしたな。



 「ありがとう、レイ」



 「い、いえ。そそそ、そんなわ、私は大したことをしていません」



 俺が、感謝を述べるとレイの顔は真っ赤になって慌てた。さてと、ずっとここにいるのも悪いし帰りますか。



 「じゃあ、レイ。ありがとな。俺は、部屋に戻るよ」



 「待ってください」



 レイが俺の足をつかんで俺を止めた。なんだ、最近は俺の足をつかむゲームが流行っているのか。



 「あ、あのわ、私を一緒に旅に連れて行ってくれませんか?」



 ………はい? 今なんと。



 「悪い。理解できなかった。もう一度言ってくれ」



 俺は、理解できなかったのでもう一度さっきのことを言ってくれと頼んだ。



 「は、はい。ギンさん私と結婚してください」



 「それ、違うだろっ!」



 はっ。つい突っ込んでしまった。俺のテンションの違いにレイは怯えている。普段人前ではクールを装っているが本来俺はクールキャラではなく、このように何かとテンションの高いキャラだ。いや、そんなことはどうでもいい。



 「すまない。つい、癖で。というより、なんで結婚してくださいなんだよ。1回目は一緒に旅に連れて行ってくださいと言わなかったか?」



 「そ、そうでした。す、すみません。つい、告白してしまいました」



 しょぼんとしおれた花のようにおとなしくなった。



 「まぁ、いいけど。けどよ、好きな人以外に告白はしてはいけないぞ。冗談でも駄目だ」



 「冗談じゃないのに………」



 「うん? 何か言った?」



 レイが小言で何かを言ったので聞いたが答えてくれなかった。何だよ、独り言か。



 「そ、それでさ、さっきの話はどうしますか?」



 さっきの話。一緒に旅をすることだ。とりあえず、ピーチェとも話さないとだしな。



 「待ってくれ。明日話すからいいか?」



 俺は、レイの様子を伺った。レイの顔は明るくなり。



 「分かりました」



 そう言った。俺は、レイの笑顔を見た後自分の部屋に帰った。そして、その夜事件が発生する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る