第10話 レイ

 ライムさんの許可をもらったことで俺とピーチェはようやくエイジアに行けることになった。ピーチェ曰く、アフーカ以外の町に行くのは初めてだそうだ。もっとほかの世界を見せてやりたいと思った。だが、危ない道は通れない。行きは急いだから危険な生物がたくさん生息している砂漠を経由したが、帰りは特に急ぐこともないし危なくない街道沿いを通り歩くことにした。街道沿いということは町が多い。俺達は、アフーカを出てすぐ南にある町距離的に言うと5キロもない位置にある『コニア』というアフーカより小さな町に来ていた。町の様子は繁栄しているとは言い難くむしろさびれ始めていると見えた。所々店が閉まっている。しかも、外を出歩く町人の姿もほとんど見当たらなかった。


 コニアといえばかつては近くにある鉱山によりものすごく繁栄した町だ。しかし、その鉱山も閉山となり今ではこのありさまか。



 「ギンさん」



 ピーチェが隣から声をかけてきた。うん? どうしたのだろうか。



 「どうした、ピーチェ?」



 「あれはなんですか?」



 「あれ?」



 あれは何かと聞かれた俺はピーチェの指がさす方を向いてみた。そこで俺が見たものとは。



 「きゃぁぁぁぁ」



 「ヘヘヘ。金をよこせっ! さもないとこのお嬢ちゃんがどうなってもいいのかな?」



 「ちょっ、ちょっと待ってくれ。金ならやるから娘だけは娘だけはどうかご勘弁ください」



 「うっせぇぞジジイ。早くよこせと言っているんだ!」



 そこで見たものは、何かの店の主人が強盗(2人組)に襲われているところだった。しかも、その店主の娘さんらしき少女(歳は俺と同じに見える)が強盗の1人に囚われている。何とかしてあげないと。俺は思った。隣にいるピーチェもそう言いたいのだろう。とりあえず俺は強盗に立ち向かった。



 「おいっ」



 強盗に話しかける。強盗は振り向く。その顔の表情はお前誰だよと言いたそうだ。または殺してやるぞ。とでも言っているかのようだった。そして、実際に強盗は言った。



 「誰だっ! お前はいきなり出てきてぶち殺すぞ」



 そう言って、いきなり殺しにかかってきた。武器はナイフだ。


 ガタガーンバンバンガンガンドタドタ。


 見た目が強そうなのに驚くことに魔法を使わないで倒せるほど弱かった。俺が1人を倒すともう1人はたちまち逃げて行った。なんかここまで弱いと張り合いがなくてつまらないな。これでも、こないだ元神に選ばれし13人のライムさんと戦った身だぞ。



 「すいません。どこの誰だか知りませんがありがとうございます。この恩は忘れません」



 俺が、振り返ると店の主人が頭を下げてきた。俺は当然のことですと言って諌める。それでも、店主は頭を上げない。どうしたものかと思っていたところ、横から先ほどまでとらわれていた少女が話しかけてきた。



 「あ、あの。わ、私を助けていただきあ、ありがとうございます」



 「いや、そんな。大したことやってないからグハッ」



 話している途中に突然ピーチェに腹パンされた。なぜだ?



 「いや、別にギンさんがデレデレしているのが気に食わなかったわけじゃありませんよ」



 「いや、デレデレしてねぇよ。普通に接しているだけだから」



 そう言い訳しても、ピーチェは「ふーん」と言ってふくれっ面だった。何か悪いこと言ったかな。



 「あ、あの」



 「何?」



 俺は、先ほど助けられた少女に声をかけられた。何だろう? 少女が話し始めるのを待っていたが体調が悪いのか顔が真っ赤だった。そこで、店長が変わりに話してきた。



 「いや、すまないな。この子レイは恥ずかしやで。顔が真っ赤なのはおそらく──」



 店長の話は途中で途切れた。否、少女が店長の口をふさいだからだ。



 「お父さんは、余分なこと言わないで」



 その少女は、真っ赤な顔のまま店主に文句を言っている。その様子を見て俺は、平和だな~、微笑ましいなと人知れず思っていた。少女は俺の視線に気づくとあらためて挨拶をしてきた。



 「あ、あの私はレ、レイと言います。た、助けてくださりあ、ありがとうございます」



 なるほど、レイというのか。俺は、それに続いて自己紹介をした。



 「そんな当たり前のことをしたまでだからお礼を言われるまでのことじゃないよ。ちなみに俺は、ギンっていうんだ。ちなみに魔術師だ」



 そう言うと、レイの目はきらきらしていた。俺何か変なことを言ったのかな? そう疑問に思っているとまたまた横からピーチェに腹パンをされ──そうになった。なぜなら、間一髪で避けた。よしっ。



 「ギンさん。何で避けるの? まぁ、後でその辺はじっくり聞くとして私はピーチェといいます。お見知りおきを(ニコ)」



 ゾクッ。俺は、怖かった。ピーチェが笑顔だ。笑顔のピーチェは可愛い。それなのに何でこんなにも恐ろしく感じるんだ。その理由は、目が笑っていないからだとすぐにわかった。ピーチェさん何に怒りなのでしょうか。俺には、その理由が全く持ってわからなかった。



 「あ、あのわ、私何かしましたか、ピーチェさん?」



 レイが恐る恐るピーチェに聞いている。その言葉を聞いてピーチェはレイを睨みつけた。その視線にびっくりしたレイは「ひぃ」と恐れてしまい、びくびくしていた。



 「ピーチェ。レイさんを怯えさせることはないんじゃないか? 何もしていないだろ?」



 その言葉を聞いたピーチェはやれやれと首を振り、ため息をついた。なんか、ため息をつかれるようなことをしたのか。



 「そうですね。ギンさんはそういう人でしたね。わかりました。レイさん。先ほどのことは謝ります。すいませんでした」



 「い、いえこ、こちらこそな、何かす、すいませんでした」



 ピーチェとレイは握手をしてこの場は収まった。その後、俺達はレイさんのお店が宿だと知り泊まることになった。ちなみに、レイさんは俺と同じ年だった。



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