第8話 賭け



 宿に帰った俺は、真っ先にご主人がいる部屋へと向かった。


 コンコン。ドアをノックした後部屋の中から「どうぞ」という声が聞こえたのでそのままドアを開いた。


 部屋に入ると目も前にある大きな椅子とまではいかないがさぞ高級であろう椅子があった。ただ、ご主人はそこに座ってはおらず奥側に位置している窓から外を眺めていた。



 「ご主人少し話があるのですがよろしいですか?」



 「分かっている。ピーチェのことだろう。どうせ、一緒にエイジアへ連れて行くとでもいうのだろう。違うか? お前らが空き地で毎日修行をしていることはすべて知っているぞ」



 「…………」



 ご主人は俺の方へと振り返りながらそう答えた。


 どうやらご主人にはお見通しだった。ご主人は一言でいうと絵にかいたような堅物だ。そのため、いつも融通が利かない。前に俺があること(何を頼んだのかは言いたくはない)を頼んだときももう反対されそのうち意識が無くなり気付いたらなぜか自分の部屋にパンツ一丁で倒れていた。あの時は何があったのか理解できなかったぜ。しかし、後になって知ることになったのだがご主人ライム=ギーガの正体は今から12年前に幻影魔法を操るかつて最強の幻使いと言われた神に選ばれし13人の1人であった。



 「いいだろうというとでも思ったのか? 私にはあの子にはもっと別の道に進んでほしいと思っているのだよ」



 ギーガはそう言った。確かに、親心としてもっと安全な仕事についてほしい、嫁に行ってほしいと思うかもしれない。しかし、それでも…それでもピーチェは決めたんだ。



 「ピーチェは魔術師になると決めたんだ。俺はその夢を応援するっ!」



 俺は、何としてもピーチェには自分の夢を叶えてほしい。だから、俺は精一杯お願いする。……………土下座をして。格好悪いと思うならそれでもいい。



 「土下座か。お前の気持ちも娘の気持ちも分かっている。それでもダメだ。もし行きたいというなら……私を決闘で倒すことができれば認めよう」



 「…………」



 決闘をしろだと! まさか、そのような提案をしてくるとは流石だ。ギーガはもう10年前に引退をしている。なので、現役時代ほどの実力はないだろう。しかし、それでも強敵であるのは間違いない。この勝負受けて立つべきなのか。俺は、真剣に考えていた。



 「どうした? そんなに負けるのが怖いのか? それともお前の覚悟はこんなものなのか?」



 ギーガは、挑発してくる。これは完璧勝つつもりでいる。何としてもピーチェのエイジア行きを認めるつもりはないみたいだ。俺は、どうすればいいんだ。この勝負受けても勝てる確率は限りなく0に近い。そんな賭けみたいなことをしていいのか。いや、もう迷うな俺はピーチェの夢のために戦ってやる。



 「分かりました。受けて立ちましょう」



 俺は、そう宣言した。ギーガは不思議と笑みを漏らした。



 「分かった、明日の12時に例の空き地に来い」



 俺は、ピーチェの部屋に行くとこのことをピーチェには話さず交渉は進んでいるとだけ言って自分の部屋に帰った。


 この時俺は、もしもこのことを言ったらピーチェはどう思うのか怖かったから言えなかったんだ。

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