第39話

 救急車がすぐに来た。

 私も一緒に救急車に乗った。

 私は、文字で博くんが入院している病院の名前を書いた。

 救命士さんは、すぐに状況を把握し、その病院に向かった。

 病院に向かうと、孤児院の先生が立っていた。

 私は、怒られると思った。


 だけど違った。


 先生は、私の顔を見ると顔をくしゃくしゃにさせて涙を流した。


「ダメじゃない、勝手に遠い所に行っちゃ……」


 私も、自然と涙が出た。

 今までの不安、絶望、全てが流れた気がした。


 だから、私は泣いた。

 いっぱい泣いた。


 博くんは、すぐに手術室に入った。

 本当は今日、手術するはずだった。

 それが無理をしたからこうなった。


 私のせいだ……

 私が止めていればこんな事にはならなかったんだ。


 そう考えると急に怖くなった。

 博くんが死んだらどうしよう……


 私は、怖くて怖くて涙が止まらなくなった。

 先生は、そんな私を優しく抱きしめてくれた。


 手術室のランプが消えた。

 そして、そこからお医者さんがいっぱい出てきた。


 先生がお医者さんに尋ねる。


「博くんは、どうなりましたか……」


 お医者さんは、首を横に振った。


「命だけは何とかなりましたが……

 このまま昏睡状態が続けば……」


「そんな……」


 先生は、涙を流した。

 私は、言葉の意味を理解できないでいた。

 病室で博くんが眠っている


 博くんが動かない

 でも、手を握ると温かかった。

 私は、その温もりに安心感を覚えた。

 私は、毎日、毎日、毎日、お見舞いに行った。


 面会時間は昼の3時から……


 それまでは、港ちゃんと一緒に遊ぶ。

 3時のおやつの時間が終わったらすぐに博君に会いに行く……

 博君は、目を覚まさない。

 そんなある日……


 港ちゃんのお父さんと言う人が現れた。


「港、すまなかったな……」


「!?」


 港ちゃんは、目を丸くして驚いた。


「……?」


 そして、港ちゃんは、その男の人の体に飛びついた。


「今日から日本で、働く事になった

 これで、一緒に暮らせるぞ……」


 おじさんは、そう言うと港ちゃんを抱きしめて、院長室の方に向かった。

 私は、その光景をじっと見ていた。

 ただ見ているだけしか出来なかった。


 次に、港ちゃんが出ていく時……

 港ちゃんは、おじさんと手をつないでいた。


「にょにょにょ?」


 私は、港ちゃんに声をかけた。

 港ちゃんは、私に手を振った。

 私も港ちゃんに手を振った。


 バイバイ


 その後、港ちゃんが孤児院に来る事はなかった。

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