第38話

 ゆっくりと歩く見知らぬ道

 私の知らない道を、また戻る。

 今度はきちんと切符を二人分買った。

 電車に揺られる私達。


 二人とも言葉を話す事はない。

 私に話せる言葉はない。


 こんな時、どんな言葉をかけたらいいのかが分からない……


 行きの時間より帰りの時間の方が長く感じた。

 同じ時間で、帰っているのに……

 帰りの時間の方が長く感じた。


 電車を降りて知っている街に来た時。


 博くんは、咳をした。


「コホコホコホ」


 博くんの手から、真っ赤な血が零れた。


「にょにょにょ?」


 そして、博くんはその場で倒れた。

 どうすればいいのか解らない……


 私は、道行く人に声をかけた。


「にょにょにょ!」


『助けて!!』


 そう言いたいのに言葉にならない


 誰も助けてくれない……


「にょにょにょにょにょにょ!にょにょ!」


 誰も気づいてくれない……


 孤独、不安、絶望……


その全てが私の頭をくるくると回転した。



「瞳……」



 博くんが、苦しそうに私の名前を呼んだ。


「病院に帰ろう……」


 私は、博君の体を引っ張った。

 ゆっくりゆっくり引っ張った。


 ズルズル……

 ズルルズルル……

 ズルルルと


 その時、知らない誰かが声をかけてくれた。


「どうしたの?」


 私は、最後のチャンスだと思い言葉を出した。


「にょにょにゅにゅにゅにょにゅにょ……」


 やっぱり、言葉が出ない。

 やっぱり、私はダメな子だ……


 だけど、その人は博くんの事に気づいてくれた。


「大変だわ

 救急車を呼ばなくちゃ……」


 その人は、慌てて近くの公衆電話から電話をかけてくれた。

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