第35話
病院から孤児院まで、そんなに離れてはいなかった。
だから、次の日もその次の日もお見舞いにいった。
「そんな毎日来なくてもいいよ……」
博くんは、照れくさそうに笑った。
でも、私は毎日会いたくなった。
港ちゃんは、今日は風邪でお見舞いはお休み。
今は、点滴を受けている。
「俺、明日手術なんだってさ……」
博くんが手を震わせながら私の手を握った。
「にょにょにょ」
手術って何?
私は、そう聞きたかったけど言葉に出来なかった。
「俺、怖い……」
「にょにょにょ」
「手術嫌だ!」
博くんはそう言うと、立ち上がって走り出した。
私も、博くんを追いかけた。
「瞳、ついて来てくれるのか?」
「にょにょ」
私は、『うん』とうなずいた。
博くんと一緒ならどこでもよかった……
博君は、私の手をぎゅっと握ると病院を出た。
私たちの小さな小さな冒険が始まるのだと、私の中で胸が高鳴った。
「俺、お母さんに会いたい」
「にょ?」
「俺のお母さん、死んでいないんだ……」
「にょにょにょ……」
「東京って場所にいるんだ……」
「にょーにょ?」
「だから、空港に行こう」
博くんは、私の手を引っ張った。
そして、私はそれに従った。
私たちは、お金を持っていなかった。
駅のホームで、私達は呆然と立っていた。
すると、博君は何かを思いついたかのように私の目を見て言った。
「いいか?
瞳、俺はあの人の後にこっそりとついて行くから……
お前は、あの人の後ろについていけ……」
それが、どういう意味かはわからない。
だけど私は、コクリとうなずいた。
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