第30話

 ママは、小さな小さな箱に閉じ込められました。

 蓋を開けようとしたら、お坊さんに叱られました。


 どうして?私、悪い事をしていないのに……


 ママは、小さな小さな箱の中。

 出してあげることも姿を確認することも出来ません。


 ママは何処に行ったの?

 博くんに聞いたけど「わかんない」と答えました。


 少し悲しかった。

 博君の言った「わかんない」は、【ママが何処に行ったのか】が、分からないのではなく。


「私の言葉がわかんない」


 なのだから。

 それでも、博君は一生懸命、私の話を聞いてくれたので嬉しかった。


 ありがとう。


 先生が、私の体を抱き上げると私にこう言いました。


「今日から、先生が貴方のお母さんよ」


 私には、ママがいる。

 ママがママではなくなって先生が【お母さん?】

 意味がわかんない。


 私は、詳しく聞きたかったけど言葉は、通じませんでした。

 私は、言われるがままに手を引かれ。

 言われるがままについて行った。


 そこは、孤児院。

 そこは、ひなた院。


 ついた頃には日が暮れていた。


 夕日に照らされた院は、眩しかった。


「お前誰だ?」


 知らない男の子に声を掛けられた。


「にょにょにょ……」


 言葉が出ない。


「にょにょさん?」


 続いて、知らない女の子が、その男の子の影からひょこりと顔を出す。


「この子は、有得 瞳ちゃんよ。

 みんな、仲良くね」


 先生が、そう言うとみんなは、「はーい」と返事をした。


「こいつは、病気で、『にょ』しか話せないんだ…

 だからって、苛めたらダメだからな!」


 博くんは、私の体を持ち上げてそういった。


 みんなは、しーんと、静まりかえった。


「にょにょにょ?にょにょにょにょ…

 にょにょにょ!」


 言葉が出ない。

 私は一生懸命、挨拶をした。

 だけど、誰一人、私の言葉を理解できる人はいなかった。

 子供たちは、少しずつ散り散りになり、各自仲の言い子達と遊び始めた。


「大丈夫、少しずつ慣れて行くさ……」


 博くんは、そう言うと、私の頭をくしゃりと撫でてくれた。

 博くんは、「じゃ、俺用事があるから」

 そう言うと、博君は部屋を出て行った。

 私は、奇妙な目で見られていたが、気にしないことにした。


「あいつ、絶対おかしいって……」


 私は、その声の方を見た。


「うわ、こっち見た。

 にょにょにょが移るぞ、逃げろー」


 男の子たちは、そう言うと走って部屋を出て行った。


「……にょ」


 すると、女の子が話しかけてきた。


「貴方、本当に『にょ』しか話せないの?」


「にょにょにょにょにょ!にょにょ!

 にょにょにょ!」


 私は、一生懸命身振り手振りで伝えようとした。


【よろしくお願いします】


 って言いたかった。


 だけど、伝わらなかった。

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