第29話

 次の日の昼。

 お葬式がはじまった。

 そこも、やっぱり黒い服を着た人が沢山居て、怖かった。

 私、お葬式なんてよくわからない。

 ただ、先生が言っていた。


「今日は、お葬式だから。

 ママときちんとお別れを言うのよ」


 私は、じっとママの顔を見ていた。

 綺麗に化粧をして、今にも『いってきます』と言ってお出かけするような気がした。


 私はいつも留守番

 いい子にお留守番していると、私の大好きなコロッケを買ってきてくれるんだ。

 私は、それが嬉しかった。


 だけど、もうそんな事は起きないんだ。

 私は、知っている。

 もう、ママには会えないって。

 ママは、黒い男の人たちに担がれ、そして車の中へと入っていった。


 黒い服を着た人が黒い車に乗ってどこかへ行く。

 私たちも、小さなバスにのり、その後をついていった。


 これから、何が起こるのだろう。


 大きな建物の中に連れて行かれて。

 大きな部屋に案内された。


「みなさん、最後のお別れをしてください」


 皆、ママに手を合わせて泣いていた。

 ねぇ。最後ってどういう事?

 ねぇ、お別れって?

 私は、言葉が話せない。


「にょにょにょ」


 と意味不明の言葉しか出てこない。

 ママは、木の箱に入ったまま、小さな穴の中に掘り込まれると・・・

 その穴のドアを閉められた。


「焼き上がりは45分程度になります」


 45分したら、ママにあえるの?

 ママが帰ってくるの?


 私は、さよならって手を振ったけど。

 聞きたかった。


『ママはどこにいったの?』


 でも、誰にも伝えれなかった。


 45分なんて、あっという間。


 ママが箱から出てきたとき。

 そこには、ママがいなかった。


 残ったのは、白い粉と白い塊。


 みんなが、少しずつ大きさの違うお箸で骨をつまみ

 小さな箱の中にいれて入った。


 こんなのママじゃない!

 私は、わんわんと泣いた。


 博くんが私をぎゅっとしてくれた。

 博くんの心臓の音が、バクバクと聞こえた。


「ママがいなくても僕はいるよ」


 博くんが耳元で呟いた。

 私は、コクリと頷き涙を止めた。

 白い箱に入れられたママの一部を小さなキーホルダーに入れて、知らないおじさんが私にくれた。


「これ、ママだから大切にしまってね」


 私は、おじさんからそれを受け取ると。

 ぎゅっと、それを抱きしめた。


 ママ、お帰りなさい。

 私は、暫くそのままでいると先生が私の肩をやさしく叩いた。


「もう、帰りましょうか……」


 私は、コクリと頷いた。

 お葬式にも御通夜にも、太郎くんとお婆ちゃんが来ることは無かった。


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