第28話


「ひとみって言うのかぁ~

 ありきたりな名前だなぁ~」


 私は、口を膨らませ抗議した。


「にょ!!?」


「怒るなって、俺だってありきたりな名前なんだし」


 男の子は、にっと白い歯を出して笑った。


「お前はこれからどうするの?」


 私は首を横に振った。


「さっき、俺の先生が来てたから、お前も孤児院に来るのかもな?」


「にょにょにょ?」


「『孤児院』

 親が居ない子供が行くところだよ。

 『施設』って言えばわかるかな?」


 私は、首を横に振った。


「お前何歳?

 歳の分だけ鳴いてみて?」


「にょ。にょ。にょ。」


 私は、3回「にょ」を言うと博くんの目を見た。


「3歳か、俺よりふたつも年下なんだな」


「にょにょにょ」


 私は首をかしげて博の目を見た。

 ガラガラガラ

 その時、扉が開いた。


 そこには、知らない年輩のおばあさんが立っていた。

 おばあさんは、私の目線に合わせるようにしゃがむと


「貴方が、有得 瞳ちゃん?」


 と聞いてきた。

 私は、「にょ」と言い。

 軽く頷く。


「そう、よかった。

 私、孤児院の先生をやっているの・・・

 今日は、先生の所に泊まらない?」

 私は、博の顔を見た。


「大丈夫だよ

 この人は、先生だから」


 博くんは優しく呟いた。

 私は、ママの手をぎゅっと握った。

 握っておかないと不安で不安で押しつぶされそうになった。


 ママの手は硬く冷たかった。

 おばあさんは、私の頭を撫でながら言った。


「瞳ちゃんのママも泊まって良いって言ってたよ」


「にょ?」


 本当に、ママがそう言ったの?


 私は、ママの手を離し、おばあさんの手を握った。

 すると、博くんも私の手を握ってくれた。


 暖かい。

 私、これ知ってる『温もり』って言うんだ。


「お前は、今日から俺の子分なんだからな」


 博くんは、笑いながら私に言った。

 私は、子分でもなんでもよかった。

 一人じゃないのなら……

 それでよかった。

 

 その日の夜。


 私は、黒い服の人に囲まれていた。

 みんな、泣いていた。


 ママは、綺麗な化粧をしていた。

 そして、そのママは、大きな木の箱の中で眠っていた。


「にょにょ?」


 ママと呼んでも、ママは返事を返さなかった。

 ママの体に触れてみると、ひんやりと冷たかった。


 鉄のように硬く、南極の鉄のように冷たく感じた・・・

 不安で泣きそうなとき、博くんが私の手を握ってくれた。


「俺は、まだ生きているから暖かいよ」


 博くんは、先生に駄々をこねて一緒についてきてくれた。


 知らない人だらけの場所に、知っている人がひとりでもいる。

 それが、何より嬉しかった。


「にょにょにょ」


 私を握る手に力が入った。


「お前は俺の子分なんだからな」


 そういった博くんの手は少し震えていた。

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