第31話
「変なのー」
女の子は、そう言うと友達の輪の中に入っていった。
「…にょ」
どうすればいい?
私だって、言葉を話したい。
でも、話せないんだ。
仕方がないじゃないか。
自分の中で、言葉を続けた。
私が顔をあげると、ひそひそ話をしている子供たとの姿が見えた。
それは、数ヶ月前、保育園に初めて行った時のこと。
そこで、友達を作ることは出来なかった。
『にょ』しか話せない。
そこにある壁は大きかった。
見える壁は、叩けば壊せる。
だけど見えない壁は、叩いただけじゃ壊れない。
ママが手を引っ張って保育園に連れてきてくれた。
「お友達いっぱい作ろうね」
ママは、私の目を見て優しく微笑んだ。
そこからは、私は保育園の先生に手を引かれ、教室の中に戻った。
「今日から新しく入るお友達を紹介します。」
先生は、そう言って私を紹介した。
「にょにょにょ……」
自己紹介をしようとしたけれど、言葉が出ない。
「この有得 瞳ちゃんは病気で『にょ』しか言えないの。
だからって、苛めないように!
みんな、仲良くね!」
先生が、私の代わりに自己紹介。
嬉しいけど切ない。
私は、輪に入ることなど出来なかった。
「おはよう」「さようなら」
「こんにちわ」「ありがとう」
「ごめんなさい」
日常生活で、必要な言葉が言葉として出てこない。
輪からはみ出すモノ。
輪を乱すモノ。
輪に入れないモノ。
そんな子が、いきなり入ってきても、友達が出来るはずもなく、私はやがて孤立していく事になる。
「あ、にょにょにょが来たー!」
クラスの誰かが言った。
「にょにょにょが移るぞー!
みんな逃げろー」
皆、私が近寄れば、皆が離れていく…
「……にょ」
『……行かないで』
そう言いたかったけど、言えなかった…
「保育園楽しい?」
ある日、ママが、私に優しい声で尋ねた。
私は何も答えなかった。
「何かあった?」
私は、首を横にふる。
本当は言いたかった。
だけど言えなかった…
「……にょ」
私は、小さな声で呟き、ママの手を強く握った。
「……保育園、瞳にはまだ少し早かったかな?」
私は何も答えれない。
ママは、そんな私を見て優しく抱きしめた。
「気づけなくてごめんね」
私は、その日のうちに保育園を辞めた。
それは、私が保育園に入って2ヶ月後の事だった。
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