第27話

 部屋には、眠っているママと私が二人。

 看護婦さんの足跡は聞こえるけど、入ってはこない。

 私は、そっとママに触れてみた。


 冷たい。


 ひんやりとした部屋に私と二人。


「君のママは、死んだんだよ」


 誰も居ないはずの部屋の中でその声が響いた。

 私は、振り返る。


 そこには、知らない男の子が立っていた。


「君のママは死んだんだよ」


 男の子はもう一度繰り返した。


「にょにょ?」


 男の子は、苦笑いを浮かべながらこう言った。


「『にょにょ』って何語だよ。」


 男の子は、部屋に入りママの顔にハンカチを乗せると手を合わせた。


「にょ!?」


 何をするの?と私は言いたかった。

 でも伝わるはずも無い。


「もしかして、お前は『にょ』しか言えない

 にょにょにょ星人か!?」


 男の子は、そう言うと体を構え、私の頭にチョップをした。

 痛い。

 痛いときに痛いって言えたら幸せだろうな。

 私は、「にょー」

 と叫んだ。


 私の言葉を理解してくれる存在は、もう居ない。

 パパは、私の言葉を理解してくれなかったけど。

 ママは、私が何を言っても理解してくれた。


 もう、ママはいない。

 そう思うと、涙が流れた。


「なんだよ、何泣いているんだよ・・・」


 男の子は、そう言うと、頭を撫でてくれた。

 男の子の姿をもう一度確認すると、パジャマを着ていた。

 男の子は入院しているのだろうか?


「ごめん、泣くなってコレをあげるから……」


 男の子は、そう言うとクマのキーホルダーをくれた。


「にょー」


 私は、ありがとうって意味で言ったけど伝わったのか伝わってないのか、私の頭をくしゃくしゃっと撫でてくれた。


「俺の名前は、斉藤 博。

 お前の名前は?」


「にょにょにょ」


 男の子は、困った顔で答えた。


「うーん。何が言いたいのかわかんない。

 もう、『にょにょにょ星人』で良いかな?」


「にょにょにょ!にょにょにょにょにょ!」


 私は、抗議した。

 そんな、あだ名は、嫌だ。


「やっぱ、ダメか?

 じゃ、なんて呼べば良い?」


 私は、考えた考えて考えて考えた結果。

 指で文字を書いた。


 ひ


 と


 み


「わかんない、もう一度」


 ひ


「ひ?」


 と


「と?」


 み


「み?」



「ひとみ!」


 私は、コクリと頷いた。

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