第26話

 私は、ママの体を揺すった。

 ママは、ゆっくりと目を開け、私の頭を撫でた。


 グリグリ、グリグリ。

 グリグリ……


 グリグリ、グリグリ。

 グリグリ……


 私は、安心した。

 安心して、ウトウトと眠くなった。


 グリグリ、グリグリ、グリグリ


 それでも、ママはニッコリと笑い頭を撫でてくれた。

 グリグリ、グリ・・・


 私が目を覚ましたとき、知らないお兄さんにだっこされていた。

 ママは眠っている。

 静かに眠っている。

 寝息は、立ててはいない。

 私は、知らない男に抱かれている。

 なんかこの言い方大人っぽい。


 でも、このお兄さん誰だろう?


「にょにょ?」


「あ、起きた?」


「にょにょにょにょ?」


「何が言いたいの?」


「にょにょにょ!にょにょにょにょ!

 にょにょにょにょにょ!」


「何言ってるかわかんないよ……」


 お兄さんは、困った顔をして笑った。


 私は、手足をばたつかせると、お兄さんは床にそっと私を置いてくれた。


「にょにょにょ」


 お兄さんは、苦笑いを浮かべて笑った。


「やっぱ、わかんないや……」


 お兄さんは、ママの顔を見てつらそうに苦笑いを浮かべた。


「久しぶりにあったら、死んでたなんてシャレになんないよ。

 ガキ残して、何やってんだよ」


 悔しそうに涙を流した。

 あれ?私、この人知っている。


 何度か会った事がある気がする。


 んっと、誰だっけ。


 私は、不思議そうに男の子の顔を見た。


「あ、俺、太郎だけど覚えている??」


 あー。

 そうだった、太郎さんだ。

 ママの弟で、去年のお正月に会った気がする。


「覚えているわけないよね。」


 太郎さんは呟いた。


「3歳のガキに、何言ってるんだろう」


「にょ?」 


 ガラガラガラ。

 扉が開く。

 そこには、お婆ちゃんが立っていた。


「太郎?」


「あ、お母さん」


「さぁ、太郎帰るわよ。」


「うん」


「瞳ちゃん、ごめんね。バイバイ」


 お婆ちゃんは、そう言うと太郎さんを強引に引っ張って出ていった。


 私は、このとき子供心に理解していた。

 お婆ちゃんとは、もう二度と会えない。


「にょにょ・・・」


 私は、手を振った。

 それしかできなかった。

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