第86話湖沼牧場

「パパ、ここが奇麗になるの」

「ああ、もう直ぐ綺麗になるよ」

「社員さんに働いてもらうの。

 それともボランティアに頼むの」

「刑務所の受刑者にやってもらうんだよ」

「でもお金はパパが払うんでしょ」

「その金は、被害者に方に支払われるからね。

 いくらかかっても惜しくはないよ」

「そっかぁ」


 俺は林業再生だけでなく、日本の湖沼の再生にも資金を投じた。

 湖沼や溜池を買えるだけ買った。

 特に放置された農業用ため池は、資金と人手を投入して掻い掘りを行った。

 養魚場として再利用出来るようにだ。

 鰻の完全養殖が可能になったから、その養殖場として利用するのだ。

 一人前二〇〇〇円以上する鰻の蒲焼を、一〇〇〇円以下にまで下げるのだ。


 それだけではなく、世界的に輸出可能な、キャビアの元となるチョウザメの養殖も始めた。

 外来魚の流出に気を付けると言う条件で、上海ガニの養殖も始めた。

 日本人が大好きなバナメイエビとブラックタイガーの養殖の始めた。

 鯛に似た味のティラピアも養殖している。

 もっとも一ドル三〇円前後と言う超円高時代なので、安価な食材が輸入出来てしまうのだが。


 これは二度も中国艦隊を撃退した事が大きい。

 日本は神風の吹く国。

 元寇の事もあり、日本は神に護られた国だという都市伝説が、世界中に広まってしまっている。

 もっとも、アメリカに負けたという事実もあるので、正しい政治を行っている限りという大前提があるのだが。

 

 まあ、そんなこんなで、大陸大国と大紛争中で、第三次世界大戦直前というのに、一向に円高が収まらなかった。

 この状況での輸出はとても難しいのだが、日本産の超高級食材は別格だった。

 うま味が濃く、糖度が高く、安全性が担保された日本の高級食材は、全世界のセレブが万金を積んで買い求めたがった。


 それに便乗して、日本伝統の食材を売り込んだ。

 好みは激しく分かれたが、鮒寿司が珍重された。

 世界三大珍味に準ずるモノとして扱われた。

 日本の三大珍味、カラスミ(魚の卵巣の塩漬け)・ウニ・コノワタも飛ぶように売れた。

 超円高なのにだ。


 鮒寿司にかんしては、詳しい解説書が世界中に広まり、厳しい等級分けがされた。

 まず厳密に分けられたのは、本当の鮒寿司の原料であるニゴロブナが使われているか、それとも代用のゲンゴロウブナが使われているかだ。

 これで全く値段が違う。


 次に分けられるのが、最初から最後まで飯と塩で漬け続けるのか、最後に酒粕で漬け直すかだ。

 食通や名店は、生産者に漬け方をオーダーするほどだった。

 当然だが、今迄と同じように、雄と雌では卵を持つ雌の方が高く売られている。


 俺達の努力と時流の御陰で、日本の伝統産業が各地で息を吹き返した。

 正し事とは言い切れないが、それも日本が大陸大国に勝ったからのようだ。

 強い者に憧れるのは人の性なのかもしれない。

 日本人の作る品物が、軍事力に後押しされて認められている。

 複雑な心境だ。

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