第6話育児2

「御飯だよ」

「「クゥーン」」

 妖狐達が男に匿われて一週間が過ぎたが、最初は警戒していた緑色の妖狐も男に懐くようになった。

 最初に男が排便の補助をしようとすると、緑色の子は暴れて抵抗しようとした。

 桃色の子は、綿花を人肌の御湯で湿らせ、陰部を軽く上下に男が擦るだけで、直ぐに排泄していた。

 今では安心して身を任せてくれる。

 男は小説やユーチューブの投稿を遅らせてでも、犬猫の育て方をネットで勉強して、出来るだけ妖狐達を御世話しようとしていた。

 その知識もあって、排泄の補助の時はトイレ予定の箱の中で行い、ミルクは寝床の箱で与えるようにしていた。

「この子達を動画に投稿したら、可愛いから再生回数を増やせるだろうけど、この毛色だと、子狐に毛染めをしたと叩かれるだろうな」

 男も何時までも動画投稿を減らす事の不利を悟っていた。

 再生回数が収入に直結する男は、下手な動画を数多く投稿する事で、生きていくのに最低限の収入を稼いでいた。

 妖狐達に必要な犬猫用のミルクや道具は、男が日頃使っている物に比べて恐ろしく割高だった。

 実家を売った時の御金は全額残っていたが、それを使いきってしまったら、生活保護に頼るか野垂れ死にするしかない。

 出来る事なら人を頼りことなく、自分の力で生きていきたいと男は思っていた。

「もう少し大きくなってからなら、叩かれる可能性も低くなるのだが。

 それに今が一番可愛くて、再生回数も稼げるだがな」

「「クゥーン」」

「嫌なのか」

「「クゥーン」」

「言葉が分かるのかな。

 母親が異世界の言葉が話せるインテリなのだから、この子達も賢いだろうけど、この幼さで異世界の言葉が理解出来るのかな」

「「クゥーン」」

「まだ御腹が空いているのかな」

 男は無駄になって捨てるのも覚悟で、もう少しミルクを作ることにした。

 妖狐達は何時もより五割多いミルクを、グイグイと飲み干した。

「まあ大丈夫だとは思うけど、母親を追いかけていると言う異世界人が、この世界の動画を監視している可能性もあるし、投稿は諦める方がいいな」

 男は、メキメキと育つ父性本能によって、生活費より妖狐達の安全を優先する事にした。

 自分が傷つけられることも怖かったが、何よりも妖狐達の安全が大切だった。

 まだ早いとは言え、散歩をさせる事も心配だった。

 杞憂に終わる可能性の方が高いが、異世界人が人工衛星を乗っ取り、妖狐達を探している可能性もある。

 荒唐無稽な可能性であろうと、人間の言葉を離す狐に会って、子狐を託されると言うファンタジー遭遇した以上、これから何があってもおかしくないと、男は覚悟していた。

 同時に男は、自分が狂っている可能性も考えていた。

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