第5話育児1

「さて、どうしたものか」

 家に辿り着いたものの、五十男の一人暮らしでは、乳離れをしていない子狐に与えるモノなどない。

 牛乳もなければコーヒーミルクもない。

 急いで古いバスタオルと毛布で寝度を作り、原付を飛ばして街に出かけた。

 ドラッグストアーやスーパーマーケットを回り、何とか動物用のミルクと哺乳瓶を買って帰れたのは、三時間後だった。

「「キュゥーン、キュゥーン、キュゥーン」」

「ごめんな、待たせたな」

「「キュゥーン、キュゥーン、キュゥーン」」

 二匹で抱き合うように、古い毛布にくるまっていた妖狐は、怯えるような目で男を見た。

 男は急いで買ってきた猫用の粉ミルクを、人肌に温めた御湯に溶かし、哺乳瓶に入れて妖狐に与えようとした。

「フッワァー」

「キュゥーン」

 緑色の子は桃色の子を護るように威嚇し、桃色の子はいなくなった母親に助けを求めるように泣いた。

 男は緑色の子の威嚇に恐怖を感じたものの、桃色の子の泣き声に父性本能が刺激された。

「御腹すいたろ、これを飲みなさい」

「フッワァー」

「キュゥーン」

 相変わらず緑の子は威嚇するが、幼過ぎて危険はないように男も感じ始めた。

 恐る恐る哺乳瓶を近づけると、桃色の子が空腹に耐えかねたのだろう。

 緑色の子を押しのけて、哺乳瓶に食いつき、チューチューとミルクを飲み始めた。

 桃色の子がミルクを飲むのを見て、緑色の子も空腹が我慢出来なくなったんだろう。

 緑の子ももう一つの哺乳分に食らいつき、グイグイとミルクを飲み始めた。

「やれやれ、気ままな一人暮らしも今日で終わりだな」

 人間関係が嫌になり、母親が亡くなったのを機に親戚と絶縁し、郊外の家を売って田舎に逃げてきた男は、月額二万円で古民家を借りて住んでいた。

 たった一人なのに、和室が七部屋・板の間が二部屋・洋室が二部屋の十一DKと言う無駄に広い家だ。

 広大な山林と小川、十反の農地までついていた。

 もっとも、アマチュア作家とユーチューバーで生活費を稼いでいる男には、広大な山林や広い古民家は、創作のアイデアと再生回数を稼ぐのには必要なモノだった。

 十四畳の洋室以外は続き間になっており、状況に応じて建具を外すことで好みの広さにして利用できるし、南側の縁側からは、庭木や庭石のある立派な庭も利用出来た。

 四季折々の景観も美しく、ユーチューブで配信するには都合がよかった。

 ダイニングキッチンも十四畳と広々しており、キッチンも作業スペースが広く、料理動画を作るのに最適だった。 

 敷地内には蔵と車庫もあり、車庫前の駐車スペースも4台以上駐車可能で、色々な検証動画を作る広さもあった。

 十反三千坪の農地も、農作業動画を作るのに利用出来た。

 隣の家からは原付バイクで三十分以上離れており、異世界の妖狐を匿っても、見つかる恐れなどなかった。

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