第133話親衛隊員

「訓練は任せたぞ」

「御待ち下さい。半数は御連れ下さい」

「仕方ないな」

 難民団の統率の為、アレクサンダー王子は親衛隊使った。

 余りに人数が多い為、長く隊列が伸びてしまい、効率よく食糧の配布や治癒魔法が使えなかった。

 アレクサンダー王子は後ろ髪を引かれる思いだった。

 王都から逃げてきた難民は助けてあげたい。

 同時に、逃げられずに王都に取り残されている人も助けてあげたい。

 王都で無事に生き延びている人が少ないのは分かっていたが、だからと言って見捨てる事など出来ない。

 父王と王太子は最優先で助けなければならない。

 そうしないと、魔族に利用されてしまう。

 死んでいたとしても、遺体をそのままにしておくと、魔族がアンデットにして利用するだろう。

 それが分かっていたから、本当は民よりも優先しなければならない。

 だが、それが出来ずに、王都全域にターンアンデットの一撃を加えてしまっていた。

 その為に、魔力が回復するまで半日の時間を浪費してしまった。

 民を助ける事が浪費だというのは語弊があるが、父王と王太子が悪用された場合の被害を考えれば、浪費になってしまう可能性があった。

「殿下。一人で先走らないでください」

「遅れる者は実力不足だ。難民キャンプに戻れ」

 諫言するパトリックに冷たく言い放ち、アレクサンダー王子は更に移動速度を上げた。

 パトリック、マーティン、ロジャーの三人は追随出来たが、他の親衛隊は脱落していった。

「御前達は殿下の申される通り、戻って民を護れ」

「「「「「は」」」」」

 親衛隊達は、悔しい思いをかみ殺して離脱していった。

 アレクサンダー王子に近習していた彼らは、王子の苦しみを理解していた。

 父王と民の両方を護りたいのに、それが十分果たせない王子の苦しみを感じていた。

 いや、王子は全く口にしないが、実母を助けたいと言う願いを感じていた。

 王子として口にする事は許されないが、本心では、父王や民よりも実母を優先したいと思っている事を、親衛隊の面々は感じ取っていた。

 だからこそ、王子の足手纏いにならないと誓っていた。

 どれほど厳しい命令であろうと、必ず成し遂げると決めていた。

 自分のプライドや対面を優先しないと、親衛隊員の一人一人が誓っていた。

 難民の護衛を命じられた者は、王子が気懸りに思うことがないように、完璧に難民を護ると誓っていた。

 王子の護衛を命じられた者は、盾となってでも王子を護ると誓っていた。

 ここに来て難民キャンプに戻れと命じられるのは、屈辱以外のなにものでもなかったが、王子の足手 纏いになる訳にはいかないと、唇をかみしめて新たな命令に従った。

 同時にもっと鍛錬するぞと、親衛隊員の一人一人が決意を新たにしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る