第132話難民

「食糧を配布してくれ。分かっていると思うが、公平にな」

「「「「「は」」」」」

 王都にターンアンデットの一撃を与えたアレクサンダー王子は、次に難民の支援を行った。

 混乱初日は王都からの難民は少なかったが、翌日からは大量の難民が王都近郊の村に押し寄せた。

 僅かな数の銅級冒険者が、難民を指導したが、統率など執れるはずもなかった。

 アンデットに襲われ、着の身着のままで逃げ出した大量の難民を、村の食糧で養うことなど不可能だった。

 二日三日は空腹に我慢出来ても、四日目になると盗みを働く者も出てくる。

 五日目になると、徒党を組んで食糧庫を襲う者まで出てきてしまう。

 王都の近郊であるために、代官も警備兵も常駐しておらず、用事のある時だけ王都から赴く形だったので、野盗と化した難民を押しとどめる事など不可能だった。

 だが難民の中にも、村人の中にも機転の利く者がいる。

 そんな者が冒険者と協力して、ベン大将軍の名を出して、食糧の供出記録を作ることを提案した。

 村人達も、ベン大将軍なら供出した食糧を補填してくれると信じた。

 難民の中に隠れて悪事を働こうとしていた者達も、ベン大将軍の名に恐れをなした。

 少々知恵の回る悪人なら、ベン大将軍の眼を欺く事など不可能だと理解出来た。

 だが本当に愚かな人間は、それでも悪事を働こうとした。

 そんな人間ほど、反社会的な組織に属していたから、国が混乱したこんな時こそ、暴力で全てを得ようと暴れ出した。

 だが、それもベン大将軍の名声が防いでくれた。

 大勢が同意しなかったのだ。

 孤立した野蛮人達は、それでも少数で徒党を組み、暴力で難民の群れを支配しようとした。

 だが目端の利く人間が、王国崩壊後の体制で出世する事を考えた。

「ここで自警団を作り、ベン大将軍の下に馳せ参じ、国の為に役立つぞ」

「「「「おう」」」」」

 この言葉に、心正しい者は集まった。

 同時に野心有る者も、ベン大将軍の下で立身出世する為に集まった。

 暴力で生きてきた悪人達を相手にするのだから、少なくない犠牲者は出たが、それでも何とか正義と野心の下に集まった集団が勝利した。

 彼らは近郊の村の食糧を全て集めるべく、男達だけで隊を作って食糧の強制供出に周った。

 女子供や老人は、近郊の村で教えてもらった、ベン大将軍が駐屯している国境線に向かって移動を始めた。

 王都から普通の旅人で約六十日の距離にあるのだが、幼子や子供が混じる難民団では、百日以上かかるかもしれない。

 それでなくても、先の魔族の侵攻で荒廃しているのだ。

 余分な食糧など全く残っていないのだ。

 弱い者達が飢えと渇きに苦しんでいる時に、アレクサンダー王子が駆けつけてきた。

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