第131話ターンアンデット

「ターンアンデット」

 アレクサンダー王子は、パトリック達の諫言を無視して、一気に王都に向かった。

 そして問答無用で、王都全域にターンアンデットの魔法を使った。

 大国であるアリステラ王国の王都は、普通では考えられないくらい広大だ。

 魔境とダンジョンに近接しているので、食糧と資材の自給も可能だ。

 王都から排出されるゴミや汚物も、魔境に散布すれば野獣や魔獣が食べてくれる。

 その御陰で、他国の王都に十倍する、百万人以上の人口を誇っていた。

 だからこそ、王城・上級貴族地区・下級貴族地区・士族地区・富裕地区・中産地区・庶民地区と、どんどんどんどん王都が広がり、城壁と水堀が王城を十も取り囲んでいた。

 その全域にターンアンデットの魔法を使うなど、常識では考えられない事だ。

 アゼス魔境での戦いで、考えられないくらい魔力量が増えたアレクサンダー王子といえども、ごっそりと魔力を失うことになった。

 本当に切羽詰まっていたら、使った分の魔力を魔晶石から補充するのだが、それでは予備の魔力が心もとなくなる。

 難敵であろう魔族との決戦を控える身では、魔力に不安な状態で戦う事は出来ない。

「今日はこれで撤退する」

「「「「「は」」」」」

 アレクサンダー王子の突出をどう止めようかと思っていたパトリック達は、王子がターンアンデットの一撃で引くと言ってくれたことに安堵していた。

 だが同時に、自分達の諫言を無視してここまで突出したのに、一撃で引く事に疑念も抱いた。

「一撃で引いて下さるのは有り難い事ですが、ならば何故諫言を無視されたのですか」

「一分一秒でも早くアンデットを昇天させることが出来れば、例え僅かな可能性であろうと、王都で生き延びている民が助かる可能性がある」

「はい」

「陛下や兄弟達が生き延びていたとしても、どこに隠れているか調べるには時間がかかる」

「はい」

「陛下達は王家伝来の魔道具で身を護っているはずだから、数の暴力で圧倒されない限り、少々の魔族に後れを取ることはない」

「左様でございますな」

「それと」

「はい」

「万が一武勇拙く敗れていたとしたら、アンデットになった姿を余やパトリック達に曝したくはないだろう」

「殿下」

「余も、陛下や兄弟達が、ゾンビになった姿など見たくない」

「申し訳ありません。殿下と陛下の御気持ちを考えられませんでした」

 パトリックが親衛隊を代表して詫びた。

「万が一の時は、陛下も兄弟達も王都を魔族達から護ろうとして討ち死にしたで終わりにしたい。アンデットになって王都の民を襲ったなどという事は、後世に伝えない方がいい」

「承りました」

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