第130話後手

 パトリック達が厳しい対応をするのも仕方がなかった。

 アレクサンダー王子の下に陛下の伝令が届いたのは、王都に変事があってから七日後だったのだ。

 数々の変事と戦いによって王国軍の損害は激しく、魔法使いが激減していた。

 転移魔法や飛行魔法を使える魔法使いなど生き残っておらず、伝令と軍馬に身体強化魔法とかけることの出来る魔法使いも、レベルの低い者しか生き残っていなかった。

 伝令が途中の貴族領で身体強化魔法を受けたくても、魔法使いがいない貴族領が大半だった。

 伝令と軍馬は、身体を限界まで酷使して、王都からボニオン騎士団領にまで辿り着いた。

 普通の旅人が六十日かかる行程を、七日で駆けぬけたのだ。

 だがその七日間は、絶望的な七日間でもあった。

 国王が生き延びているのか。

 それとも魔族に憑依されてしまっているのか。

 王都の民は、無事に逃げられたのか。

 それともアンデットにされてしまっているのか。

 全く分からない状況であった。

 だからこそ、一番早く移動が可能なアレクサンダー王子は、単独で強硬偵察しようとしていた。

 同時に逃げ延びた王都の民がいるのなら、一分一秒でも早く食糧を届けたかった。

 だが一方パトリック達は、人類の希望であるアレクサンダー王子に危険な真似をさせたくなかった。

 これほど後手に回ってしまった以上、少々急いでも仕方がないと考えていた。

「一人でも多くの民を助けるのが、貴族王族の務めだ。七日も八日も時間を使う訳にはいかん。身体強化魔法を重ね掛け出来る者だけを連れて王都に向かう」

「仕方ございません。親衛隊だけで御側を護らせていただきます」

「騎士団の指揮はサイモンに任せる」

「しかしサイモン殿は魔法使いですが」

「ならばパトリックかマーティンが残るか」

 サイモンは国王がアレクサンダー王子の為に付けてくれた王家魔法使いだ。

 普通なら魔法騎士である親衛隊の誰かが騎士団の指揮を執るのだが、今回はアレクサンダー王子の側を離れるわけにはいかない。

 それと同時に、ボニオン騎士団も一分一秒でも早く王都に辿り着かなければならない。

 その為には、身体強化魔法が使える魔法使いが同行する必要がある。

 サイモンの体力だと、アレクサンダー王子に同行するのは厳しかったが、ボニオン騎士団に同行するのは可能だった。

 サイモンが魔晶石を使って身体強化魔法と回復魔法を限界までかけて、ボニオン騎士団を一分一秒でも早く王都に辿り着かせる。

 アレクサンダー王子達のように、一日で王都に辿り着くことは出来なくても、魔晶石を無尽蔵に使えるのなら、三日で王都に辿り着けるだろう。

 それにサイモンの指揮能力と見識は、急造のボニオン騎士団ではずば抜けている。

「出陣」

 アレクサンダー王子の号令一下、ボニオン騎士団は出陣した。

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