第129話出陣

「全軍を率いられますか」

「いや、ネッツェ王国の民も守らねばならない」

「では、ネッツェ王国の兵は残されて、ボニオン騎士団を全軍率いられますか」

「民が飢える姿も見たくない」

「確かに殿下はボニオン領の民に責任がございますが、これからは、アリステラ王国の全ての民にも責任がございますぞ」

「父親陛下と王太子殿下が亡くなられていると言いたいのか」

「その可能性も、考慮しておく必要がございます」

「他の兄上達が生き残っている可能性は高いぞ」

「陛下の願いを無になされる御心算ですか」

「殺せと言うのか」

「人類が滅ぶかどうかの瀬戸際でございます。実の兄君達を殺すのが嫌なら、神殿に預ける事も出来ます」

「事ここに至っては、その覚悟は必要だな」

「はい。もし、殿下に匹敵する能力が御有りの兄君がおられるのなら、王都がここまでの惨状になってはおりません」

 国王からの伝令がアレクサンダー王子の下に辿り着いて、即座に出陣の用意が命じられた。

 実質アレクサンダー王子の属国になっているネッツェ王国にも、近隣諸国の侵攻に対して、防備を整えるように伝令が送られた。

 アリステラ王国が混乱すれば、欲をかく国が出てくるからだ。

「だが、王都の民を助けるためには、膨大な食料を確保する必要がある。その為には、魔境やダンジョンでの狩りを続ける必要がある」

「それは、殿下の命令で、全ての魔境とダンジョンを管理する者に集めさせましょう」

「もっと表に出ろと言うのか」

「国難の時でございます。それに一時的な食糧は、殿下が確保されておられるではありませんか」

 確かにアレクサンダー王子は、アゼス魔境で莫大な量の食糧を確保していた。

「分かった。だが王都には一人で行く」

「それは御止め下さい」

「パトリックの言うように、王位を望むのなら、それに相応しい行動を取らねばならん」

「武名を得る努力は必要ですが、君主危うきに近寄らずともあります。先ずは王都の民を助ける事を優先されてください」

「確かに、難民となった民の事を一番に考えなければならないな。王都に残っているのは、王侯貴族と将兵がほとんどだろうからな。だが、逃げ遅れた民もいるだろう。彼らも助けなければならない」

「はい。確かに助けなければなりませんが、数少ない逃げ遅れた民を助けていて、多くの難民を見殺しにするには、為政者のなすべき事ではありません」

「分かっている。先ずは難民を助けるために、五千の騎士団を動員する。難民の安全を確保したら、単騎で王都に攻め込むぞ」

「それはなりません。我らだけでも御供させていただきますぞ」

 パトリック以下の古参近習が、決意を秘めた目でアレクサンダー王子の側を固めた。

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